音楽を核に拡がりをみせる「SXSW」体験レポート&Tips #SXSW2018
カテゴリ:イベント/LIVE
2018-04-10

今年も盛況に終わったSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト) 2018。

このBAKERYでも音楽テックスタートアップについてのレポートなどを行ってきた。
今回はその中で取り上げきれなかったが面白かったトピック、気付き、小粒なTipsなどをまとめて体験レポート形式でご紹介したい。

SXSWの空気感をお伝えすると共に、来年参加を考えている人が、より一層楽しめるようになる情報をご紹介できればと思う。

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オースチン・バーグストロム国際空港にて

 

例年より涼しかった2018年のオースチン、ただ昼は暑く夜は肌寒い

SXSWは毎年3月に約10日間開催される。日本ではまだ肌寒い頃だが、開催地オースチンの気候は「昼は日本の初夏のような陽気、夜は3月相当」と温度差が大きい。肌が弱い人は日焼け止めクリームを持っていった方が良いというアドバイスを貰うほどだ。

ただ、2018年は比較的涼しい年だったようだ。それでも昼夜の寒暖差は大きいので、脱ぎ着で調整のできる服装が良い。また、近年は会期中に雨が降ることが多いようだが、2018は幸い、雨に遭うことはなく過ごすことができた。

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2018年、天気は良かったものの例年より涼しめ。といっても昼は汗ばむ陽気で半袖で充分。ただ、夜はしっかり羽織りたい。

ちなみに格好についてのアドバイスは、地元メディア「austin360」のムービーが面白いので、来年参加される方はぜひチェックを。

 

 

バッジ交換所や店舗で貰える『THE AUSTIN CHRONICLE』は要チェック

SXSWは10日間、街中で様々なイベントがofficial/unofficialで一気に開催される。タイトルから目当てを見つけられるカンファレンスセッションはまだしも、Music や Film については、どのように目当て/お気に入りを見つけられるかが悩ましい。

そこでオススメしたいのが地元タブロイド紙「THE AUSTIN CHRONICLE」だ。
オースチンの様々な店舗で無料配布されており、またバッジ購入者は、バッジ交換時に貰えるバッグの中に入っているので目にした方も多いはず。

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『THE AUSTIN CHRONICLE』はまとまった情報として要チェック

 

ちなみに筆者は、オースチン・バーグストロム国際空港のターミナル内にあるWATERLOO RECORDSのグッズショップで早々にGETした。

今年の『THE AUSTIN CHRONICLE』には、一覧で見れるFilm/Musicの公演タイムラインの他、その年の注目のアーティストや作品を紹介する企画ページがあり、“Next Big Buzzes at SXSW 2018”では、今年Awardsを受賞した『Jade Bird』や『Starcrawler』も含まれていた。

「知っているアーティストが出ない」「音楽に詳しくないのでSHOWCASEは楽しめないかも」という人も、ぜひこれをチェックして、新しい出会いを見つけて欲しい。

 

 

音楽ビジネス、テクノロジー活用の潮流が見えるカンファレンス

2017年のSXSWでは、「カンファレンスが混みすぎていて見れなかった」「見たいセッションの会場が散らばっていて移動の時間が多い」という声を聞くことが多かった。

それに対して、2018年は運営による改善策が所々で感じられた。例えば、コンベンションセンターの各所には『Event Status Board』が配置されていたのも、その一つ。

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コンベンションセンターには各所に、各会場の混み具合が表示されるサイネージが配置。

 

このサイネージで、同時間帯に開催されている各セッションの混み具合を、Green / Yellow / Red のカラーで一目で確認することができた。

また、今年の『SXSW GO』アプリも秀逸。『Event Status Board』と同様に、各セッション混み具合を確認することができたこともあり、満員の会場に行ってしまう無駄足を防ぐことができ、また、全体として行列も少なかったように感じた。(もちろん、イーロン・マスクのような注目の登壇者のセッションは行列ができていたが)

 

個人的な想いとして、多種多様なカテゴリのセッションが行われるSXSWだからこそ、空き具合などを見てどんどんセッションに飛び込んで見てもらいたい。そうした“越境”から新しいアイディアが生まれるとすれば、SXSWは最高の場所になり得る。

 

 

トピック1 クリエイティブに“AI”をツールとして使い、共創していく

2018年のセッションにおけるホットワードとして『ブロックチェーン』と『AI』がやはり挙げられるだろう。そこで筆者も『AI』のセッションにいくつか潜り込んでみた。

その中で感じたのは、「いかにAIと“共に”クリエーションしていくか」という視点だ。

 

『Limitless Creativity: How to Design in an AI World』(https://schedule.sxsw.com/2018/events/PP79085)は、AIを用いていかにクリエイティビティを発揮していくかについて語られたセッションだ。

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『Limitless Creativity: How to Design in an AI World』

 

このセッションでは事例を交えながら、“Preparation”と“Incubation”、“Illumination”というカテゴリにおいて、いかに人間とAIが関わっていくべきか/関わっていくとよいかについて考察。
終盤に掲げられた「Creative Human + Artificial Intelligence = Limitless Creativity」というメッセージの通り、AIを組み合わせる/組み込むことで創造性は拡がっていくという思想を伝えた。

この「AIに人間の作業を代替させるのではなく、ツールとして使う/共創者として位置づける」という、考え方は他のセッションでもみられた。

 

『AI: Ready to disrupt experience design?』(https://schedule.sxsw.com/2018/events/PP74123)は、“体験”をデザインする上での AI/Deep Learning の可能性についてのアイディアを共有してくれたセッションだ。

“プロダクト体験者の感情分析” や “イベントにおける人検知・導線分析”、さらに現在研究が進む AIと対話しながら進めるプロダクトデザインから派生しての “AIとの体験デザイン” というアイディアを提示してくれた。

その現時点での活用事例において「AIとリサーチャーがコラボレーションすることで、最もパフォーマンスを発揮する」というメッセージを示している。

AI READY TO DISRUPT EXPERIENCE DESIGN
『AI: Ready to disrupt experience design?』

 

クリエイティブにおけるAIとの“共創”というと、日本でも『AIDJ』の取り組みなどが想起される。今年は一層、「AIとどうコラボレーションし、新しい可能性を見出していくか」が重要になりそうだ。

 

 

トピック2 アーティストとファン、音楽とブランド…世界的に求められる「新しい“関係性”」

“音楽・エンタメ×テクノロジー”を標榜するBAKERYとしては、やはり音楽ビジネスのセッションも見逃せない。
実に多様なセッションがある中で参加できたものはやはり限られてはくるが、キーワードを挙げるとすれば「新しい“関係性”をいかに作るか」ということだろうか。

 

『Artists & Fans – Serving the Sacred Bond』(https://schedule.sxsw.com/2018/events/PP71042)では、「“アーティスト”と“ファン”の間で、いかに楽曲以外の繋がりを生み出していくか」が語られた。

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『Artists & Fans – Serving the Sacred Bond』

 

ストリーミングサービスの普及により、楽曲単位で触れられることが多くなっている昨今において、楽曲を超えてアーティストに繋がりを感じてくれるファンができることは大きなチャンスになり得る。このセッションでは実際にアーティスト『RAYE ZARAGOZA』が登壇し、どのようにファンとの繋がりを作っているかがシェアされた。

Spotifyの機能活用からデータ分析、時にはemailを活用して、ファンと“共創”していくことの大事さについて、熱が篭ったトークが行われた。

 

『Building a Brand Music Strategy』(https://schedule.sxsw.com/2018/events/PP74289)では、「ブランドと音楽の関係性」について語られている。

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音楽とブランド、新しい関係が求められる

ブランドと音楽、その双方のパワーを活かした “Co-marketing” について、ComcastやBudweiser、Windexなどの事例が紹介された。

音楽の持つ “人の心を動かす力”、アーティストの “偶像性・イメージ” を活用することの重要性は勿論のこと、アーティスト・ブランド双方にとって幸福となる関係性の構築が、持続していくために重要となると再認識させてくれるセッションであった。

 

音楽の視聴環境・体験が変化している中、そのパワーを活かし持続させていくためには新しい関係が求められる。

業界に大きな変化をもたらしてくれるものとして浮かぶものの一つに “スタートアップ企業” があるが、「音楽業界と音楽スタートアップ」について語られたセッション『Barriers to Innovation for New Music Experiences』(https://schedule.sxsw.com/2018/events/PP75105)も興味深い内容であった。

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『Barriers to Innovation for New Music Experiences』

 

スマートスピーカーの普及による音楽接触のさらなる変化など、音楽スタートアップとしてはエキサイティングな年になりそうな2018年。だがやはり障壁として “音楽ライセンス” が立ちはだかる。

現在、ブロックチェーンによるライセンス管理・契約管理にも注目が集まっているが、その動向・変化を見据えながら新たな体験をいかに生み出していくか。BAKERYとしても追っていきたいトピックだ。

 

 

トピック3 音楽への愛情に溢れた、Music Keynote

様々なカンファレンス・セッションを見てきて、2018年に一番シビレたのは、Lyor Cohen氏によるMusic Keynoteだった。

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Def JamやWarner、300 Entertainmentなど、Hip-Hop Musicの歴史と共にあった氏は現在、YouTubeにて音楽部門のGlobal Headを務めている。

そんな彼の歴史と音楽への愛情を、DJを伴ってプレゼンしていったこのKeynoteは必見モノだった。(YouTubeで公開されているので、是非見てもらいたい)

 

ちなみに蛇足だが、このMusic Keynoteの前座として、一人のドラマーがパフォーマンスを行ったのだが、それが抜群に格好良くて。Keynote終了後、さっそく調べてみると「Moses Boyd」というアーティストだと分かり、SHOWCASE LIVEのスケジュールを調べて追ってみたが、LIVEも実に最高だった。

個人的に『Shopping』と並んで、今後フォローしていきたいと感じたアーティストだ。是非チェックしてみて欲しい。

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Music Keynote前にパフォーマンスで魅せてくれた『Moses Boyd』、SHOWCASE LIVEも最高だった。

 

街にあふれる音楽、会期後半は熱気が違う。Officialイベントだけじゃなく、Unofficialパーティも要注目。

SXSWは、音楽の見本市からスタートしたイベントだが、その熱は健在だ。昨今ではInteractiveにフォーカスが当たりがちだが、カンファレンス・セッションだけ回るのはあまりに勿体ない。

6thストリートを歩くと、昼でも夜でも、企業が貸し切ったハウスやBar、路上と、会期中は街のいたるところで音楽が流れている。

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歩く場所のあらゆるところで音楽と出会えるオースチン

 

そんなMusicの熱を体感する上で注目しておきたいのが、会期中に開催される “Unofficialな” イベント・パーティだ。

Officialのイベントも注目なのだけれど、混雑していて落ち着いて見れないことも多い。だが実は、SXSW会期中には“公式スケジュールには載っていないイベント”も数多く開催されている。

今年筆者は、SXSW Musicベテランの方々からオススメいただいた、オースチンの音楽文化において欠かせないレコードショップ『WATERLOO RECORDS』にて開催される『WATERLOO DAY PARTIES』に飛び込んでみた。

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レコードショップのイベント、ということでそこまで大きく無いと想像していたが、行ってみてびっくり。店の前のスペースにはしっかりとしたステージが建てられており、地元の住民の方々が、子供からご老人まで多くの人で賑わっている“しっかりとしたフェスティバル”になっていた。

OfficialのVenueで体感したようなぎゅうぎゅうな感じはなく、余裕のあるスペースで音楽を楽しむことができた。

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また、このステージに出るアーティストラインナップも豪華。2018年の『Grulke Prize』に輝いた Jade Bird やStarcrawler なども参加アーティストに名を連ねていた。

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OfficialのSHOWCASE LIVEでは定員や時間の都合で見れなかったアーティストも、実は別日・別会場のUnofficialパーティに登場している、ということもよくあるようだ。

来年参加される方はUnofficialのパーティも是非チェックを!

 

 

空港⇔ダウンタウンの移動はUBERかlyftで、早朝も問題なくピックアップ可能

最後に、渡米前に筆者が一番心配していたことについて共有しておきたい。それは、「空港とホテル間の移動方法について」だ。

特に今回筆者はAM7:00台の帰国便だったため、「AM4:00台にどう空港に行けばいいか」について不安に思い、airbnbホストに相談するなどしていた。

 

初日、空港からダウンタウンまではTAXIで

初日、空港からホテルへの移動は、TAXI乗り場へ行くと案内されるので問題は無かった。ちなみに筆者が乗ったTAXIは、行き先をiPadのGoogle Mapに入れさせて、あとは最短距離を走る、という面白い(かつ安心な)システムだった。

 

ちょっとした移動時、早朝の空港へはライドシェアリングサービスがオススメ

問題は「AM4:00台にどう空港に行けばいいか」だったが、全く問題なし。

SXSW期間中は『UBER』や『lyft』などのライドシェアリングサービスが、時間問わず何台もダウンタウン周辺を走り回っており、AM4:00台でも5分強程度で迎えに来てくれた。(なお、2017年はUBER・lyftがオースチンから撤退していたが、2018年時点では両者ともオースチンでのサービスを再開している。)

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筆者は2018年は主にlyft(https://www.lyft.com/)を利用。

 

日本では、あまりライドシェアリングサービスを使ったことの無い人も多いと思うので、利用時に気をつけておきたいポイントを以下にまとめておく。安心してオースチンを、そしてSXSWを楽しもう!

  • 念の為、複数のライドシェアサービスに登録しておく
    (UBERとlyftがオススメ)
  • クレジットカードなどの登録・設定は日本国内で行っておくこと
    (電話番号でSMSを受け取る必要がある場合、アメリカだと受け取れず登録できないことがあるため)
  • pickupを依頼する際には、ピンが自分のいる場所にちゃんとあるかチェック
    (自動で位置情報を取得してくれるが、ずれている場合がある)
  • 車がpickupしやすいポジションについてから、pickupを依頼しよう
    (アメリカの車道は右側通行だ。左側の歩道にいる際に呼んでしまうと、自分が右側に渡るよりも先に車が着いてしまい、電話がかかってきてしまう。もちろん英語で。)
  • 一方通行の道路や、車両通行止めの場所でpickupを依頼しないように注意を
    (乗れなかった場合は、キャンセル料を取られることもあるので注意を)
  • ドライバーによるが、割と話しかけられるので、英語が苦手な方は心の準備を
    (接客態度も評価に入るため、割と話しかけてくる。定番は「どこから来たのか?」「どれくらい滞在するんだ?」など。)
  • もはや定番ネタだが、日本のタクシーのようにドアは自動で開閉しないので、ちゃんと自分で開け閉めを

 

 

音楽の熱量は直に体験する価値あり、今後どう広がりを見せていくか

これまでのレポートで触れられなかったSXSWの魅力・Tipsについて書き連ねた今回、いかがだったろうか。少しでも参考になれば幸いだ。

 

今回筆者は、“音楽とエンターテインメント、クリエイティブ”にフォーカスしてテクノロジーやマーケティングをチェックしてきたが、強く感じたことは「やはりSXSWの核は音楽にある」ということだ。会期後半、メインがMusicになってから、オースチンという街全体の空気感・熱量が変わるのを肌で体感できたこと、それが今回のSXSWでの一番の学びになったかもしれない。

音楽の見本市に端を発し、音楽ビジネスの変化に先んじてFilmやInteractiveなどを拡がりを見せてきたSXSW。その核となる音楽の熱量は未だ体験する価値がある。

今後どのような変化を見せるのか、街・イベントのデザインにおけるモデルケースとしてもウォッチし続けていきたい。

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来年はどんなアイディア、アーティストに出会えるか。もう楽しみでならない。

 

2018-04-10 | Posted in イベント/LIVE | by Yuki Abe

Yuki Abe

音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。