Rhizomatiks Research(ライゾマティクス リサーチ)が企画制作する、ダンスカンパニーELEVENPLAYとのダンスインスタレーション「border」が12月4日(金)〜12月6日(日)に、spiral hallにて公開されました。
最新の技術とダンスの融合が織りなす新体験をレポートします。
Rhizomatiks ResearchとELEVEN PLAYについて
「Rhizomatiks Research」は、人とテクノロジーの関係について研究し、アーティスト、研究者、グラフィック・デザイナー、スポーツ選手、ダンサー、振付家、演出家、音楽家、エンジニアなど様々なクリエーターとのコラボレーションワークを通じて世の中にアート、エンターテイメントプロジェクトを発表していくための組織。
(公式ページより)
また、「ELEVENPLAY」は、Perfumeの演出・振付も行う演出振付家のMIKIKO氏が率いるダンスカンパニー。
この2つの組織のコラボレーションによるダンスインスタレーション「MOSAIC」は2014年より公開されており、現在ではDVDとして購入・鑑賞することができます。
(ELEVENPLAY公式ストア)
新作公演「border」について
今回のダンス公演「border」は観客が、日本発のパーソナルモビリティ「WHILL」に乗ってインスタレーションの一部となり“体感する”ダンス公演。
観客は独自開発のカメラを装着したヘッドマウントディスプレイ、ヘッドフォンを装着し「WHILL」に乗り込むと、自動操縦されるまま、“ダンサー”と“立方体のオブジェ”が行き交うインスタレーション空間を移動しながら鑑賞します。
ヘッドマウントディスプレイで覆われた視界には、カメラを通して見える現実の景色と混在してバーチャルの映像が投影されていきます。
※ 公演開始前に公開されたteaser
現実とバーチャルが融けていく体験
圧倒的なパフォーマンスを見せるダンサー、そして空間に均等に配置された“白い直方体”にもモーターが組み込まれており空間を移動します。
そして、高レベルの光と音響で包まれる空間を、WHILLに乗って動き回る観客。その“立ち位置”と“視線・頭の角度”はセンサーにてトラッキングされており、その視界に合わせてリアルタイムにダンサーや床、壁、立方体へバーチャル映像が合成されていきます。
(※技術的な考察は後述)
時にそれは現実のままに、時にはダンサーすらもバーチャルとなり、白い直方体だったものは様々な形に姿を変えていく。
現実とバーチャルの境を見失う中、ダンサーが観客に触れることで「触感」によって現実に引き戻さる。
現実とバーチャルを行き交う中、より一層現実とバーチャルが融け合っていく感覚に陥ります。
“ダンス”インスタレーションであること
「Rhizomatiks Research」による技術に目を奪われますが、表現の核となり実現しているのは、紛れもなくダンサー。
前述の通り、WHILLに乗る観客と直方体が目まぐるしく移動する舞台。
立ち位置を一つ間違うだけで衝突しかねない距離で、パフォーマンスを繰り広げていきます。
ダンサーの高い技量、そしてエンジニアとの信頼がとても高いレベルで構築されていると感じました。
“体験するborder” と “鑑賞するborder”
今回の「border」は、WHILLに乗る“体験チケット”の他、2階観覧席からの“鑑賞チケット”も当日発売されていました。鑑賞客に向け、奥の壁には体験者視点の映像が流れると共に、ダンス構成も体験者だけでなく鑑賞者に向けても考えられた構成となっていました。
また、体験者は自身がWHILLに乗車し鑑賞した後、鑑賞席にて第三者視点にて鑑賞する構成となっています。
まさに今回のborderは“体験”と“鑑賞”、両側面で感じることのできる素晴らしいインスタレーションとなっていました。
技術視点でみた「border」
テクノロジーメディアでもあるBAKERYとしては、やはり欠かすことのできない技術目線での情報も整理します。
- WHILL
まず今回注目すべきは“WHILL”(http://whill.jp/)でしょう。
通常は乗客が運転するモビリティですが、iPhoneなどからBluetoothを利用してコントロールすることもできるこのWHILL。
今回はまさに後者の強みを最大限に生かし、その移動はプログラミングにて完全制御されていました。
またWHILLの後方には、映像処理用のMacbookProが確認できます。
- OptiTrack + 再帰性マーカによる位置情報取得
今回、WHILLに乗った観客・立方体が自動で空間を移動しており、また観客も自由に首を回し周囲を観ることができていました。
これは「観客の乗ったWHILLがどこに位置しどこを向いているか」と「WHILLに乗った観客がどこを向いているか」を把握する必要が有ります。
会場の天井にはOptiTrack(※)が空間を囲むように配置されており、また WHILLの上部と立方体上部、観客のヘッドセットの上に再帰性マーカーのボールがセットされていました。
※モーションキャプチャカメラ。赤外線を投光し読み取るカメラ、そして距離などを計算するCPUが内蔵されており、高精度・リアルタイムにモーションをトラッキングすることができる。
※赤と青の正方形のライトがOptiTrackだと思われる
WHILL上部/立方体のマーカーによってそれぞれの位置・角度を、そしてヘッドマウントディスプレイの上部のマーカーによって頭の角度を取得していたものと思われます。 - Oculus Rift + 独自開発カメラ
ヘッドマウントディスプレイにはOculus Riftが利用されていました。またそれぞれにヘッドフォンが配備。
さらにヘッドマウントディスプレイには、今回のためにRhizomatiks Researchによって独自開発されたカメラが付けられていました。
Oculusに流される映像は、WHILL後部に搭載されたMacbookProにて描画されていました。 - 無線通信
ヘッドマウントディスプレイに取り付けられたカメラからの映像や、OptiTrackから取得した位置情報のやりとりは無線通信にて行われていました。
開演前に投影されていた映像にはそれを示す、ブースとの無線通信が確立できているかのpingなどが表示されていました。
最後に
最先端の技術と圧倒的なパフォーマンス。それらが高いレベルで融合したことにより、これまでにない体験を提供するダンスインスタレーション、それが「border」でした。
いずれもが欠けることなく、相互に信頼があってこそのインスタレーションなのではないでしょうか。
この「border」はアップデートされ、最高の音響・映像にて来年2016年2月27日(土)、28日(日)に山口情報芸術センター[YCAM]にて再度公演されるとのことです。
今回体験・鑑賞できなかった方は是非体験してみてはいかがでしょうか。実に素晴らしい体験がそこにはあるに違いないです。
ソース:
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。