Techstars Musicが音楽テックスタートアップの「Virtual Demo Day」を日本向けに期間限定公開(日本語字幕付き)
カテゴリ:エンターテック
2020-05-22

音楽系テクノロジースタートアップのアクセラレーター・プログラム「Techstars Music」が、2020年5月5日(火)に音楽業界関係者やスタートアップ起業家らを対象に行った「Virtual Demo Day」の動画を期間限定で公開することを発表した。

5月22日(金)から5月31日(日)までの期間限定で、嬉しいことに日本語字幕付きで公開される。

選ばれたスタートアップ10社の起業家が、それぞれの事業内容を紹介するプレゼンテーションとデモンストレーションする「Demo Day」、それを見られるチャンスだ。ぜひチェックしよう。

Techstars Music Accelerator demoday

 

2020年のテーマは「音楽業界の課題を解決するビジネスの創出」

Techstars Musicは「グローバル音楽市場の課題を解決する、スタートアップの支援」を目的として2017年に設立された、音楽系テクノロジースタートアップのためのアクセラレータープログラムだ。

メンバー企業として Warner Music Group や Concord Music、Bill Silva Entertainment、Peloton、Royalty Exchange、Q Prime Management、Entertainment One といったグローバルプレーヤーが参画。そして日本からは エイベックス株式会社、ソニーグループ、レコチョクが参画している。
2021年のプログラムからは、新たに Amazon Music が参加することも発表されている

 

2020年のTechstars Musicは、「音楽業界の課題を解決するビジネスの創出」をテーマに、アーリーステージのスタートアップ10社が、世界各地での審査を受けて選出された。

本プログラムでは、選出されたスタートアップ企業10社が3カ月間のプログラムを通じて、Techstars Musicからの投資を受け、音楽業界やテクノロジー企業、投資家コミュニティから編成される、300人以上のメンターから、事業拡大や技術開発、資金調達に関するアドバイスを受けることができる。

既に、VRや楽曲制作、バーチャル・アーティスト、ファン・マーケティング、著作権ビジネスなど、様々な領域で、アーティストや音楽関連企業各社との連携も始まっている。

 

「Demo Day」を日本向けに期間限定公開

そんな「Techstars Music」は毎年、ロサンゼルスに多数の音楽関連企業やテクノロジー企業の経営者、投資家、音楽業界関係者を招き、将来性豊かなスタートアップの起業家チームと、企業がマッチングできるイベント「Demo Day」を主催してきた。

今年は、新型コロナウイルスの影響によってオンライン開催となり、イベントは米Billboard Proから全世界へ配信していた。その模様が今回、5月22日(金)から5月31日(日)迄の期間限定で、日本向けに公開されることとなった。

これは、Techstars Musicが世界第2位という日本の音楽市場の重要性をふまえ、また、メンバー企業としてエイベックス株式会社、ソニーグループ、レコチョクという日本の企業が参加していること、近年、日本のスタートアップ企業のプログラムへの応募が増加していることから急遽決定されたという。

【Techstars Music Accelerator 2020 「Virtual Demo Day 2020」】
URL: https://youtu.be/AvcmRfWmDdg
公開期間:2020年5月22日(金)12:00~31日(日)23:59

 

音楽やエンターテインメントの未来を覗く10社をチェック

それでは、Demo Dayに登壇した10社を以下にご紹介していこう。

 

■Strangeloop Studios

https://strangeloop-studios.com/

Kendrick LamarやThe Weeknd、Flying Lotusなどとビジュアル制作でコラボレーションする、メディア・コンテンツ・スタジオ。同社は、初音ミクやGorillazなどのアバター・アーティストや、Lil Miquelaなどのバーチャル・インフルエンサーの進化系として、リアルなアーティストとコラボレートする、バーチャル・アーティストの開発と音楽制作を行っている。

Strangeloopは、「Spirit Bomb」と呼ばれるヴァーチャル・アーティスト・グループの開発が進められ、既に様々なアーティストたちとのコラボレーションや楽曲制作が進んでいる。将来的には、バーチャル・アーティストを活用して、ミュージックビデオや動画プロモーション用コンテンツの制作作業を迅速化し、スタジオ収録や編集作業で発生する物理的な制限や、高額な制作費の軽減を実現するという。またバーチャル・アーティストは、IPをライセンス供与し、グッズ販売や、動画配信、ゲーム、メディアへ展開することで、新たな収益源の創出も目指す。

 

■Audigo Labs

https://demoday.audigolabs.com/

Audigo Labsは、音楽のレコーディング、編集、共有の作業を、プロ品質に向上することを目指して設立されたスタートアップ。キューブ型のワイヤレスマイクと、モバイルアプリ、クラウド型データ共有プラットフォームを組み合わせて、専門的な機材や配線、高額なソフトウェア無しで、高品質な録音やコンテンツを収録可能にする。アーティストやポッドキャスター、映像クリエイターを対象に、サブスクリプション・モデルで、月額20ドル/35ドルという、手頃な価格での提供を目指す。コラボレーションする人数に応じて、利用できるクラウドストレージ容量やマイクの本数が選べるプランになっている。

「Demo Day」では、すでにAudigoのプラットフォームは、アーティストや音楽プロデューサー、ポッドキャスターに使用されていることが発表された。また、アーティストがオンラインで繋がり、リモートセッションで楽曲を制作するデモンストレーションが行われた。

 

■Entertainment Intelligence

https://entertainment-intelligence.com/ 

イギリス・ロンドンから参加したスタートアップ、Entertainment Intelligence(EI)は、SpotifyやApple Music、Deezer,Pandora、Amazon Music、YouTubeなど、大手ストリーミング・サービスのデータから、有意義なインサイトを可視化できる、信頼性あるデータセットとツールを提供する。現在、米国音楽市場の4%となる1日2億再生回の音楽ストリーミング数を扱っており、将来的には20%まで取得するデータ量を伸ばすことを目指す。

すでにSub PopやSecretly Group、Concord Musicなどと契約し、レコード会社やディストリビューターからストリーミングデータを直接取得し始めている。CEOのGreg Delaneyは、EIを使って分析すれば、楽曲や動画の潜在的な市場価値を見つけることができるとし、「例えば、直近3カ月で、ロサンゼルス地域に限定して、最も高いオーディエンス・エンゲージメントのあるヒップホップ・トラックを探し出す」ことも可能だと述べた。音楽ストリーミングのデータ分析ツールでは、競合企業が多い。EIの特徴は、DSPからデータを直接取得でき、リスナーの年齢や、性別、位置情報、デバイス、プレイリストなどに応じてインデックス化してクライアントに提供できることと、Delaneyは強調する。

 

■Elastic Audio

https://www.elasticaudio.com/

ビデオゲーム向けの複雑なサウンドプロダクションを簡素化する技術を提供するのがElastic Audio。様々な開発プラットフォームに対応可能なツールを提供し、これまで時間を要してきたゲーム用オーディオやサウンド制作の大幅な時間短縮を実現、サウンドクリエイターやオーディオデザイナーの収入源を拡張する。

Elastic Audioのサブスクリプション・サービスを活用することで、リアルタイムなサウンド制作・編集が可能になる。同社のプラグインをUnreal EngineやUnityなど複数のゲームエンジンやDAWに組み込み、クリエイターやスタジオ間でのコラボレーションや、カスタマイズをシームレスに実現。ゲームでのサウンドプロダクションだけでなく、映画やアニメーション、AR/VRなどでのサウンド制作も目指す。

 

■Fanaply

https://fanaply.com/

ゲームで人気を集めるバーチャルグッズを、音楽やスポーツ、エンタテインメントの分野で始めたのがFanaply。バーチャルグッズを通じて、音楽ファン同士が繋がる機会は未開拓だとFanaplyは着目している。アーティストとのエンゲージメントを高める仕組みを、バーチャルグッズを介して提供、また、ライブ配信の投げ銭機能とは異なる収益源をアーティストやパートナー企業に提供することができるという。CEOであるGrant Dexterは、Fanaplyによってアーティストやセレブリティ、アスリート一人につき、5万ドルから25万ドルの収益をバーチャルグッズで実現できると推定する。

Fanaplyは、2019年のコーチェラ・フェスティバルにおいて、公式デジタル・コレクタブル・パートナーとして、出演アーティストやフェスに関連したデジタルアイテムをゲーム感覚で集める取り組みを行った。フェス公式アプリを通じて、4万個以上のアイテムが収集される結果を残した。2020年のコーチェラ・フェスティバル(※9月に延期開催予定)にも、Fanaplyは参加予定で、Travis ScottやAriana Grandeなど、著名アーティストのデジタルアイテムをテストする予定だ。バーチャルグッズであれば、COVID-19で延期されたライブイベントや、オンラインイベントとも連携が可能で、将来的には多くのフェスティバルやスポーツチーム、アーティスト、イベントとの連携を目指している。

 

■ULO

https://www.ulo.world/

ULOは、アーティストやブランドによる、没入型体験のショート形式コンテンツのグローバル・プラットフォームを構築する。VRと異なり、ヘッドマウントディスプレイは必要なく、1,000平方フィート(約92㎡)の空間で展開が可能。サウンドやビジュアルが融合した、インタラクティブなプロモーション・イベントをリアルな空間に創出できるシステムを開発する。また遠隔からスマートフォンで参加するユーザー向けの、デジタル版も開発が可能となる。

グッズやチケット売上からの収益化、アーティストに収益分配を行う。またブランド・パートナーシップや、ホテルやイベントスペースなどの企業クライアント向けのサブスクリプション・モデルも視野に入れている。創業チームはAR/VR/XRの分野で豊富な経歴を持っていることも、強みだろう。2021年のローンチに向けて、メジャーレーベルやアーティストとのコラボレーションを進めている。

 

■TribeXR

https://www.tribexr.com/demoday

TribeXRは、クリエイティブなDJスキルを学ぶための、体験型プラットフォームをVRで提供する。VRヘッドセットを装着し、バーチャル空間内で講師と一緒に、仮想DJデッキを使いスキルを磨いたり、ライブパフォーマンスのリハーサルができる。またTribeXRでは、他のユーザーとのコラボレーションも可能で、Twitchなど配信プラットフォームでのライブ配信もできる。パートナー企業には、BeatportやAmazon Music、Tidal、SoundCloudなどがいる。

既に16,000人以上のユーザーがTribeXRを使っており、月額3万ドル以上の収益をあげている。CEOのTom Impallomeniは、TribeXRの仕組みを「クリエイティブなスキルを学び、実用化を支援するプラットフォーム」と説明している。今後はDJだけでなく、楽器演奏やダンス、演技、ファッションデザインなど、様々な領域でスキルを学びたいユーザーを対象に、2024年までに15種のスキルに拡大し、年間1億ドルを目指す。

 

■Splashmob

https://www.splashmob.app/

Splashmobは、アプリをダウンロードすることなく、モバイルサイトを通じて、ライブ中にファンのスマートフォンと同期して、イベントを盛り上げるライトやビジュアル要素を提供するセカンド・スクリーン体験技術を、アーティストやイベントプロモーター向けに開発する。また、ファンの許可を得て、ライブ中にスマートフォンの画面やスピーカー、カメラにもアクセスが可能になる。アンケートを実施したり、音楽ストリーミングやSNSでアーティストをフォローするための誘導を行うことが可能になるという。

Splashmobでは今後、3Dビジュアルや、歌詞、AR、チャット、ゲーム、バーチャルグッズなどの追加も予定している。ホワイトレーベル型のベーシックプランは無料で使用可能。接続人数数や、追加機能に応じて、サブスクリプション・プランが用意されている。

 

■Fansifter

https://fansifter.com/

エストニア発のFansifterは、アーティストやレコード・レーベル、プロモーター、権利保有者向けに、音楽ファン・データ管理プラットフォームを提供する。GDPR(EU一般データ保護規則)など、個人のデータプライバシー規制の厳守が求められる音楽業界において、個人情報を侵害することなく、関連性の高いファンを特定して、楽曲配信やチケット、グッズ販売、スポンサーシップの収入を拡大することが目的だ。実際のファン・データがブランドに共有されることはない。

Fansifterを導入することによって、ターゲティングに必要なオーディエンスデータの一元管理が可能となり、マーケティングキャンペーンの費用効果を向上できる。すでに米国のバンド、Pixiesと、レーベル、プロモーターとテストケースを開始している。レーベルやプロモーターは、必要な区分に応じて、サブスクリプション・プランでFansifterを利用する。スポーツやエンタテインメント業界、消費財ブランドへの展開も視野に入れる。

 

■Delta AI

https://deltalabs.ai/

オーストラリアのスタートアップ、Delta AIは、動画プラットフォームやSNS内で、音楽の著作権使用に関連するデータを分析する技術を提供、クロスプラットフォームで実現可能にする。レコード・レーベルや、音楽業界では長年、拡散された動画コンテンツの検索や追跡が課題だった。ハッシュタグやキーワード検索では拾いきれない、アーティストブランドや楽曲の広がり、エンゲージメント情報の追跡を、Delta AI独自の機械学習テクノロジーがクロスプラットフォームで実現可能にする。Delta Aiが行った、The Weekndの「Blinding Lights」リリースにおける、TikTokのダンスキャンペーンの分析では、キーワードやハッシュタグ検索で抽出された動画数の6.5倍の動画を特定することに成功した。

Delta AIはでは現在、TikTokやYouTube、Trillerなどの動画プラットフォームを分析している。詳細なデータアクセスに向けて、プラットフォーム企業とも提携を予定する。レコード・レーベルや権利保有者には、追跡するプラットフォームや著作権対象の個数によって、サブスクリプション・プランが用意される。

 

COVID-19で大きく変化する世界へ対応することを迫られている音楽・エンターテインメント業界。そんな中で、新たな可能性を生み出そうとしている音楽スタートアップはより重要な存在になっていき、彼らと業界をつなぐ「Techstars Music」のようなプログラムはますます重要となっていくだろう。

彼らの渾身のプレゼンテーション・デモンストレーションを見られる今回の動画、ぜひチェックを。

 

Techstars Music Accelerator 公式ページ
https://www.techstars.com/accelerators/music

2020-05-22 | Posted in エンターテック | by Yuki Abe

Yuki Abe

音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。