【MUTEK.JP 2018レポート 3】企業・アーティストのコラボレーションの場としてのMUTEK.JP
カテゴリ:イベント/LIVE
2018-12-30

2018年のBAKERYを締めくくる「MUTEK.JP 2018」レポート。3本目のこのレポートでは、「アーティストと企業のコラボレーション」にフォーカスしてお届けしたい。

今回のMUTEK.JPでは、企業による“世界初の展示”が多数公開された。新しい体験を実現していくためには、アーティストの創造力だけでなく、企業がチャレンジしコラボレーションしていくことが重要となる。

MUTEK.JPという場で新たなチャレンジが形となったコンテンツを紹介していこう。

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体験するARミュージックビデオ「I\III\IIE feat. FAMM’IN」

まず紹介したいのは、KDDIと 2nd Function のコラボレーションによって世界初公開された、“二脚の椅子を用いた”ARコンテンツ「I\III\IIE feat. FAMM’IN」だ。

 

世界的なイベントで、世界的なテクノロジー企業やブランドとコラボレーションし、メディアアートを発表してきたエイベックス社内のクリエイティヴ・レーベル「2nd Function」。彼らが今回このコンテンツのコンセプトとしたのが

“確実性のない曖昧な世界で、自分の小さな世界の外を連想すること・多くの視点を持つこと。
限りあるスペースを物理的にも心理的にもシェアする体験・変化を恐れない心“

というものだ。

体験スペースには2脚の椅子と、地面には9つ(3×3)に区切られた枠線。体験者は2人1組となりこの椅子に座らされ、ヘッドマウントディスプレイの装着を促される。

NINE 1

 

そして始まるコンテンツはまさに「体験するミュージックビデオ」といえるものだった。

コンテンツの中では、白いカーテンで区切られた通路を進んでいき、次第にそれが現実の枠線と同じく9つのボックスで構成されていることに気付く。迷路のような空間を進む映像に合わせて、現実では椅子が押され動いていくことになる。

映像の中ではフィメール・ラップ・クルー「FAMM’IN」のメンバーが登場。左右だけでなく、反射する天井や透明な足元などにもコンテンツが仕掛けられており、浮遊感も感じ、まさに「今自分はどこにいるのか、どこを向いているのか」が分からなくなってくる。

最後には広い空間に出ることができ、FAMM’INのパフォーマンスを見てコンテンツは終わる。

 

NINE 2

360°に広がる作品の世界、動かされる実感覚が合わせられたある種の“ライド”とも言えるコンテンツだが、内容・仕組み共に、新しい表現として今後の発展が楽しみだ。

 

脳波で生成される音楽と映像「NO-ON 脳波による内発音楽表現」

KONELが展示していたのは、“脳が生み出す音を聴くコンテンツ”という「『NO-ON』by KONEL」だ。

NO ON 1

パーソナライズされた楽曲が自動生成される、しかも脳波で。そんな未来の音楽・映像体験を想像させるこのコンテンツ、体験者は透過ディスプレイで覆われたボックスに入り席に着く。

脳波デバイスを装着し、表示される複数の写真から好みの一枚を選択しコンテンツはスタート。

変化する6種類の脳波(ロー・アルファ波、ハイ・アルファ波、ロー・ベータ波、ハイ・ベータ波、ロー・ガンマ波、ハイ・ガンマ波)と集中状態、瞑想状態をデバイスが取得し、自動作曲・映像生成(エフェクト)されたものが流されていく。

NO ON 2

 

意識することで変わるエフェクトはなかなかの面白さ。映像から刺激を受けているのか、はたまた自身の意思が映像を変えているのかなど考えているうちに体験は終了した。

また体験終了後、自身の脳波で生成された映像・音楽はサイトで聴けるというお土産もあった。

 

5Gを見据えたVR体験「Block Universe #001」

7階で一際目を引いたのは、スマホをこちらに向けてくるモナ・リザだろう。これはKDDIが公開した「Block Universe #001」に関連したものだ。

KDDI 2

会場に入ると、そこには螺旋のような手すりがあり、また片隅にはカメラで撮影するブースが配置されている。

スマートグラスとヘッドフォンを装着しコンテンツがスタートすると、前方にはモナ・リザの絵画が。手すりをつたわりながら歩いていくと、画が飾られた壁を通り抜け、そこには立体的なモナ・リザが手を振りスマホで写真を取ってくる。

これは自由視点VR(複数のカメラ映像から人物や背景映像を自動で抽出し、3DCGモデルで表現することで、実際のカメラ映像がないアングルからの映像鑑賞を実現する技術)と、音のVR(視聴者の操作や動作に応じたインタラクティブサウンドを合成する技術)をデジタルアートに応用したコンテンツだ。

複数のカメラやマイクに対応した映像・音響素材をもとに、任意の位置と向きに応じた視覚・聴覚を合わせて合成するコンテンツ制作技術としては世界初だという。

KDDI 1

 

また、もう一度スタート位置に案内され、スマートグラスを着けて再度歩いていくと、そこには3DCGモデルではなく、部屋の隅の撮影ブースにいた“モナ・リザに扮した人”の姿が浮かび上がり手を振ってくる。

これは、撮影した映像のリアルタイム処理・配信し、離れた距離にいる人物を目の前で3DCGで投影してコミュニケーションを実現する「テレプレゼンス」の技術。このコンテンツでは同じ部屋内でのテレプレゼンスだったため実感しにくいが、大容量のコンテンツも遅延なく送信できるようになる5G時代では、より遠隔でのコミュニケーションも出来るようになる。

遅延やポジションの調整など難しい部分もあったが、それでも今後来るであろう新たな技術を見据えたコンテンツを先取りで体験することができた。

 

多くの人の目を奪った「HOMOLOGY」

「MUTEK.JP 2018」会期中、日本科学未来館のさまざまな場所で、アート作品が展示されていたが、最も多くの人の目を奪ったのは、7階ドームシアター出口の広いスペースに展示されていた「HOMOLOGY」ではないだろうか。

HOMOLOGY 1

 

この「HOMOROGY」は、昨年のMUTEK.JP 2017における、小室哲哉氏とのコラボレーションライブが大きな話題となった、慶応義塾大学環境情報学部教授でアーティスト・サイエンティストの脇田 玲氏が、パナソニックアプライアンス社「Game Changer Catapult」が事業化に向けて開発中の住空間ディスプレイ「AMP -Ambient Media Player-」を使用したデジタルインスタレーションだ。

数学や生物学で用いられる専門用語であり、対象間の構造的、機能的、形態的類似性を意味する「ホモロジー (Homology) 」と題したこのインスタレーションについて、以下のように紹介されている。

ホモロジーとは、我々がこの世界の在り方を認知する際の傾向や限界に関する問題でもある。本作では、この概念をより広い視点から再解釈し、宇宙に遍在する諸要素の同相性を、ビジュアライゼーションとシミュレーションを通して、感得可能な状態に変換することがどの程度まで可能であるかを探る試みである。

スペースには複数台の「AMP」が置かれており、それぞれが連動しながら脇田氏によって生み出されたビジュアライゼーションが高精細に映し出し、内蔵されたスピーカーからサウンドが発していく。

一台で一枚の作品として自立し完結するほど美しく、また一歩引いて全体を見ても、また「AMP」自体によって作られた導線に従って入り込んで見ても、実に美しいインスタレーションとなっていた。

HOMOLOGY 2
浮かび上がるビジュアライゼーションが実に美しい

 

「MUTEK.JP 2018」はエクスペリメンタルで刺激的な音楽・映像が多い中、この「HOMOROGY」には子供連れの来場者も多く、近くで魅入る人、ベンチに腰掛けじっくりと魅入る人など、落ち着いて見られていたのが実に印象的であった。

会場の問題などで展示場所が移動したことや、「AMP」間の連動の調整が入るなどもあったようだが、脇田氏と「Game Changer Catapult」の協力によって、実に幻想的で美しいインスタレーションだ。

 

世界初の発表の場ともなるMUTEK.JP

気鋭のアーティストのパフォーマンスの場であり、また文化振興のための育成の場でもある「MUTEK.JP」。そこに、企業とアーティストのコラボレーションを生み出し、発表する場としての役割も果たすようになったと「MUTEK.JP 2018」では感じる。

新たな体験を支えるコラボレーションの場として、来年はどのような展示が出てくるのかが楽しみだ。

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2018-12-30 | Posted in イベント/LIVE | by Yuki Abe

Yuki Abe

音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。