【MUTEK.JP 2018 レポート1】デジタル・クリエイティブの文化を育てるデイタイム・プログラム
カテゴリ:イベント/LIVE
2018-12-30

2018年もあと僅か。2018年の最後を締めくくるものとしてBAKERYは、未だ公開できていなかった「MUTEK.JP 2018」についてレポートしていく。

2018年11月に開催された「MUTEK.JP 2018」、昨年に引き続き素晴らしかった。デジタル音楽のフェスティバルとしても、さらにはMUTEK.JP本来の思想である『デジタル・クリエイティビティ、電子音楽、オーディオ・ビジュアルアートの創造性の開発、文化芸術活動の普及』という観点で開催された、さまざまな“ワークショップ”や“アーティストと企業のコラボレーション”が行われる場としても、昨年からレベルアップしたイベントとなっていた。

イベント開催からだいぶ時間は経ってしまったが、2019年に向けてこのイベントについて書き残しておきたい。改めてBAKERYでは筆者が体験してきたものを3カテゴリ・3本に渡ってレポートする。

 

今回のレポートでは、見逃され易くも、MUTEKの思想を色濃く反映している“デイタイム・プログラム”にフォーカスする。

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アーティストと来場者が近い距離で対話するデイタイムの魅力

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デジタル・クリエイティビティ、電子音楽の普及を目的とする「MUTEK」

改めて前提として「MUTEK」とはどんなものなのかについて触れておこう。「MUTEK」とは、デジタル・クリエイティビティ、電子音楽の普及を目的とした非営利団体であり、また彼らが開催する同名のフェスティバルを指す。

2000年、カナダはモントリオールからスタートし、現在ではメキシコやバルセロナ、ブエノスアイレス、ドバイ、サンフランシスコで開催。そして東京では「MUTEK.JP」として運営・開催されている。

「MUTEK」というと、華やかなナイトタイムのライブパフォーマンスがとかくフィーチャーされがちだが、その「デジタルアートや電子音楽といった“デジタル”の文化芸術に関わる才能豊かな人材の発掘・育成をサポートし、常に世界へ向けて発信し続ける」という思想から、日中にも様々な無料/有料イベントが開催されている。

「MUTEK.JP 2018」は日本科学未来館をメイン会場とし、日中のデイタイム・プログラム、そして夜間のナイトタイム・プログラム双方とも大きな盛り上がりを見せた。

 

「多様性」にフォーカスした「DIGI LAB」

今年の「MUTEK.JP 2018」も勿論、デイタイムにさまざまなプログラムが開催されていた。

「MUTEK」のデイタイムプログラムの中心的存在となる「DIGI LAB」。カンファレンスルーム 木星では、今年もデジタル・クリエイティブのアーティストがパネルディスカッション、プレゼンテーションが2日間に渡って行われた。

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昨年はグローバルとローカル双方を育てる重要性が感じられるものだとBAKERYでもレポートしたが、今年は「デジタル・クリエイティブ業界に多様性を取り入れる」という命題が掲げられ、非男性のイノベーターやクリエイターによって、様々な「多様性」について語られるセッションが目立った。

1日目では、エレクトロニックミュージックとデジタルアート界の女性やトランスジェンダー、ノンバイナリージェンダーのアーティストのための国際的ネットワーク female:pressure について語られた「female:pressureの20年間」、キュレーター・専門家がキュレーションについてトークを展開した「キュレーションにおける多様性」、東アジアという地域における様々な多様性について語られた「東アジアのエレクトロニック・ミュージック・シーンにおける多様性」。
2日目においても「Still Be Here: Voice, Gender and the Power of Transformation」や「LGBTQ Communities & Events in Japan」などが開催された。

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「東アジアのエレクトロニック・ミュージック・シーンにおける多様性」ナイトタイムでパフォーマンスを行うアーティストも登壇

 

その他にも、アートとサイエンスの融合に関するプレゼンテーションするセッション「Art of the Future」や「ArtScience, an Extra Dimension」、MUTEKの歩みを伝える「MUTEKの20年」といったセッションも開催されている。

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Michela Pelusio氏が、アートサイエンスにおける自身の活動などについて語った「ArtScience, an Extra Dimension」

 

ジェンダー不平等に関する問題やステージ上での平等性の欠如。それらへの課題感や乗り越えた上でのチャレンジ。そういったものを、アーティストや有識者の口から直に聴ける場が、無料で公開されているということ。これこそがMUTEKの重要な側面である。

夜間の音楽フェスティバルに比べると来場者が少ないのが残念ではあるが、2019年にも開催されるとしたら、ぜひ足を運んでみてほしい。

 

盛り上がりを見せたワークショップ、「Creative Lab by Ableton」、「VR SALON」

また、フォーラム「DIGI LAB」と並行して、日本科学未来館の別の会場では、クリエイティブに関する実践的なワークショップも開催されていた。

音楽制作ソフト「Ableton Live」を提供するAbleton社主催による「Creative Lab by Ableton」では、アーティストがどのようにツールを活用し独自の音楽性を想像しているかを、アーティスト本人からシェアされるパネルディスカッションが開催された。

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「Ableton」

 

また今年は、VR/MRにフォーカスした「VR SALON」が日本で初開催された。VRがどのように制作されるのかを、実際に制作体験するワークショップや、有識者によるパネルディスカッションが開催された。

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「VR Salon」

 

注目のビジュアルプログラミングツールのワークショップ「TouchDesigner Workshop By Derivative」も2日間に渡って開催

また特に筆者が注目し実際に参加したのが、昨年に続いて開催された「TouchDesigner Workshop By Derivative」だ。

TouchDesigner」とは Derivative社 によって開発されているビジュアルプログラミングソフトウェアだ。音や音声信号などをプログラミングを行わなくても、それらを視覚的に繋ぎ合わせ高速にプロトタイピングできるツールとして、リアルタイムな映像表現やVJに活用されている。特にこの2018年、日本のコミュニティでは「TouchDesigner Study Weekend」など数多くのワークショップが開催され、その熱が高まっている。

このワークショップではそんな「TouchDesigner」について、2日間に渡って、Derivative社のインストラクター、さらには backspacetokyo や 1→10、TouchDesigner Study Weekendなどの日本のTouchDesignerコミュニティからのスペシャルなゲスト講師を迎えて、ワークショップが行われた。

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初級コースでは、TouchDesignerの基礎からスタートし、音を使って映像をリアルタイムに生成するAudio Visualizationまでを。また、中・上級コースでは、Feedbackなどの一機能について深掘っていくセッションや、TouchDesignerというツールを拡張していかに使っていくかなど、より実践的な内容が紹介された。

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Derivative社のインストラクターの指導を直接受けられるという機会は貴重であり(日本語翻訳のフォローはしっかり入っている)、また日本人のゲスト講師の内容も負けず劣らず濃いものとなった。

セッション終了後もフリータイムが設けられており、参加者と講師、参加者同士での交流の場となっていたのが印象的だ。

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※ なお、この「TouchDesigner Workshop By Derivative」のセミナーの内容はTouchDesigner公式YouTubeチャンネルにて公開されている。ぜひチェックを。

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リンク

 

ビジネスとのかかわりについて対話された「ICDC」

また、芸術的振興と社会的対話に焦点が当たった「DIGI LAB」や各種ワークショップの一方で、デジタルクリエイティビティ領域とビジネス・テクノロジー業界とのつながりにフォーカスしたカンファレンス「ICDC」も、同じくMUTEK.JP 2018のデイタイムに開催されていた。

VRやロボット、AI、都市などの注目トピックとデジタル・クリエイティブ、アートがどのように関わり合っていくかを、各業界の有識者/トップランナーが登壇しディスカッションされるというものだ。

 

筆者はDay2の「音楽とアートサイエンスの進化系」を聴講。サウンドアーティスト evala 氏が「See by Your Ears」プロジェクトを通じて、いかに音楽体験の未来を創造しようとチャレンジしているのかを、evala氏自身が語り、阿部一直氏、塚田有那氏が深掘っていく。

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音の持つまだ見ぬ可能性が語られていくにつれ、それを実現するためにはエンジニアとクリエイターとが一体となり、また企業がスポンサードすることで新しい“音の体験”を社会にリリースしていくことが重要だとトークは展開していく。

また、evala氏は前日のナイトタイムに圧倒的なパフォーマンスを見せていたが、そういった新しいチャレンジを行う場としての日本科学未来館の重要性も語られた。

 

クリエイティビティに対する教育と気付きを与える場としてのデイタイム

3日間の会期中に数多く開催されたカンファレンスやワークショップを駆け足で触れてきた。多くは無料で誰でも参加することのできるものとなっている。

2019年、MUTEKが開催されるならば、より多くの来場者がデイタイムにも来てほしい。ぜひチェックを。

 

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2018-12-30 | Posted in イベント/LIVE | by Yuki Abe
Yuki Abe

Yuki Abe

マーケティングコミュニティプラットフォーム「cocosqure」の開発 及び 音楽・エンターテイメント音楽とテクノロジーを掛け合わせたプロダクト/サービスの情報発信および開発を行っている“エンターテック・テクノロジスト/ソフトウェアエンジニア”。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。