アリアナ・グランデ「Sweetener」アルバムプロモーションの背景 ロングインタビュー
2018-12-20

2018年8月17日に発売された、アリアナ・グランデの2年ぶりのニューアルバム「Sweetener」。このアルバムの発売に際して、ユニークなプロモーション・プロジェクトが展開されていたのをご存知だろうか。

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「YouTubeでのMV公開」、「ファンを招いてのリリースイベント」、「オリジナルのiOS App公開」という3つの施策それぞれに、COTODAMA社の「Lyric Speaker」の技術が活用され、アルバムの持つ特別なメッセージ性を一層際立たせるものとなっていた。

技術の新規性をただ話題にするのではなく、音楽に対するリスペクト・愛情が感じられるもの事例として、BAKERYとしても注目していたこのプロモーション・プロジェクト。

 

どういった背景でこのコラボレーションが生まれたのか、どのような点を重視して進められていたのかを、この度 ユニバーサルミュージックの 石川 大樹 氏、そしてクリエイティブエージェンシーSIX  斎藤 迅 氏にインタビューする機会を得られた。ロングインタビューでお届けしていく。

 

  • ユニバーサル ミュージック合同会社
    ユニバーサル インターナショナル コミュニケーション部
    ソーシャルメディア&コンテンツ・グループ
    石川 大樹 氏

 

  • 株式会社SIX
    クリエイティブディレクター/ブランデッドミュージック・ディレクター
    斎藤 迅 氏

 

プロモーションの土台にあった、「No tears left to cry」という楽曲の持つ背景とは

— 本日はお時間をいただきありがとうございます。今回の一連のキャンペーンについて、お話を伺っていきたいと思います。今回の一連の施策は、「Sweetener」というアルバムのもつ “メッセージ” というものを大切にしていると一貫して感じました。この3つの施策は、最初からセットで企画されていたのでしょうか。それとも、進めていくなかでこういう形になったんでしょうか。

石川:まず、大元の部分からの話として、この「No tears left to cry」という楽曲がアリアナにとってどういう位置づけかというところからなんですけれど。この曲はアリアナにとって、2016年の前アルバム「Dangerous Woman」以降の初めての楽曲だったんですね。


その間に何があったかというと、イギリス・マンチェスターでの凄惨なテロ事件がありました。アリアナ自身も大変ショックを受け、一時的にツアーを休止せざるを得ない状況の中で。それでもアリアナは事件が起きて1ヶ月くらいにはすぐに行動を起こし「One Love Manchester」という慈善コンサートを主催し、マンチェスターの街のために、と行動を起こしました。

そういう“悲劇の主役”になってしまった部分があり、その「テロにも屈しない」という姿勢を世間に知らしめたことで「今までアリアナ・グランデを知らなかったけど、それをきっかけにアリアナを知った」という人も日本には多かったと思っているんです。

そういった出来事を経てからの新曲でアリアナは何を歌うのか、おそらく日本を含め世界が注目していたと思うんです。これまでのアリアナ・グランデは自身の恋愛のことだったりという、割と自分に近しいことを歌ってきたことが多い中で、じゃあ出てきた曲はどんなものだったのか。「No tears to left cry」には「もう涙は流さない」という強いフレーズがあるんですけれども、その楽曲のメッセージは「なにか困難に立ち向かっても、前向きに進んでいかなきゃいけない」というものでした。アリアナ本人の強い意思であると同時に、そういうことを困難に立ち向かった人の背中を押す楽曲でもあったんですね。

リスナー側も自分ゴトとして捉えられるような、そういった意味での“大衆性のある曲”というのは、アリアナの中で一つ新しいステージに上がったという象徴でもある。事件をきっかけにアリアナを知った人が増えた状況の中で「アリアナという人物はこういう人物である」という、そういう“イントロダクション”として意味のある位置づけの曲だな、と。最初に曲が出るタイミングで、社内でそういう話になったんです。

 

— なるほど。

石川:ではこの曲を売っていく過程でどうしていこうか、というときに、やはり『歌詞の持つメッセージ性』っていうのはしっかり伝えていこうというところが方針として出てきました。

どうにかそのメッセージ性を色々伝えられるものはないだろうか、という話をいろんな会社の方とご相談させていただく中で、SIXさんと話して。

「Lyric Speaker」という、詞のメッセージを耳だけじゃなく視覚的にも体感できるというデバイスがある。その技術を利用してビデオを作る。さらにそのシステムを利用したパーティをやることで、もっと歌詞のメッセージ性を訴求する。そしてアプリケーションを作ることで、歌詞と音の世界感を自分ゴトにする、というような案を頂きました。

その一連の流れはとても繋がっていたので、これは良いなと思って。ぜひ一緒にやらせていただきたいという形になりました。こちらのやりたいことに対して、今までやったことの無いような新しいご提案をいただいたことで、この一連の流れが構築されたという流れです。

 

— そうだったんですね。今回の一連の施策の提案は、COTODAMAが、「Lyric Speaker」が重視している『音楽のメッセージ性』みたいなところとマッチしたからこそ生まれたんでしょうか?

斎藤:『歌詞でアーティストの魅力を伝えていく』ということに協力する、ということはいろいろとしたいなと思っていた中で、アリアナさんの歌詞・メッセージが中心にあるということで、良い形で効果的な協力ができるかな、と思いました。

 

1つめの施策:「ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ」リリックビデオ×リリックスピーカー・キャンバス

アリアナ・グランデの「Sweetener」リリースプロモーションの1つめに挙げたいのが、この「ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ」リリックビデオ×リリックスピーカー・キャンバスだ。

この楽曲のミュージックビデオであると同時に、COTODAMA社のリリックスピーカーの新ライン「Lyric Speaker Canvas」(リリックスピーカー・キャンバス)の開発・販売の発表も同時に行われるものとなった。


「ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ」リリックビデオ×リリックスピーカー・キャンバス

アリアナのメッセージや意思を反映し、映像では様々なカップルの愛の形とリリックスピーカーを結びつけることで、聴く人の心に楽曲の持つ前向きでポジティブなメッセージを伝える“リリックビデオ”となった本MV。このMVに込められた想いについて伺った。

 

「Lyric Speaker Canvas」とのコラボレーションについて

— それでは1つめの施策「『ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ』リリックビデオ」についてお聞きしていきたいと思います。最初に伺いたいのは、「Lyric Speaker Canvas」の公開と合わせたものとなっていたという点。これはちょうど「Lyric Speaker Canvas」のリリースタイミングもマッチしたことからの組み方だったんでしょうか?

石川:元々、第一弾のお話の時点でもう「Lyric Speaker Canvas」は出来ていた状態で、実際に実物を見せていただいたんです。タイミングよくこのプロダクトも公開となるということで、リリース時期と近しいというところもあったので。双方が双方にプラスに働けばいいな、という。

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「Lyric Speaker Canvas」

— なるほど。BAKERYでも記事にさせていただいていましたが、「新ラインの製品発表さえもが、歌詞の素晴らしさを届ける活動の一部でありたい」というCOTODAMA社の想いもあったそうですね。

 

楽曲のメッセージに呼応した「チャレンジ」

— MVを拝見していて、LGBTに対する応援・メッセージ性の強いビデオだと感じました。この楽曲自体、歌詞のエピソードなど、この「No tears left to cry」はマイノリティに対するメッセージも含まれている楽曲だと思うんですが、コンセプトはそこから生まれたんでしょうか。

石川:さきほど話した部分にもかぶるんですが、「No tears left to cry」が誰しもにとっての応援歌になりうる楽曲だったというところは、LGBTに対して自己表現を悩んだりとか、葛藤がある人に対する応援歌にもなりうる、という楽曲とのマッチというところもありました。

ただ、もう一つはアリアナが元々LGBTの活動に対して支援する立場であり。アリアナが自身の活動で苦しいときに、LGBTコミュニティの人に支えられたりとか、そういう人たちが集まる場で歌うことによって心を満たされた、というような発言をオフィシャルに出していたんですね。

そういった本人の活動の背景も由来して、今回のMVの構図になったというのはあります。

 

— 今回のビデオの企画は日本側独自で展開しているんですよね?

石川:洋楽でよくあるんですけど、日本独自ビデオという形になります。

洋楽の日本独自ビデオというと、ありがちなのはタレントやお笑い芸人を起用するとか、そういうビデオも結構多いんです。ただ、そうなると話題先行になってしまうこともありがちなんですよね。「確かに再生数は伸びるけど、果たしてそれで本当に伝わっているのか」というところがある。

そういう意味では、すごく有名な人が出るわけではないですが、メッセージ性をちゃんと伝えるというところに重きを置こうというところも背景としてはありました。

 

— 通常のやり方ではなく、しっかりとメッセージ性を伝えなきゃいけないという想い。それはやはりこの楽曲の持つメッセージ性からも伝わってきたからこそなんでしょうか。

石川:「No tears left to cry」は、アリアナがしっかりチャレンジしたが故に、そして自分の身に降り掛かった困難だったりとかいろんなことに立ち向かったが故にできた曲でもあると思うんですよね。
そういう意味では、プロモーションしている我々もある種、挑戦はしていかなきゃいけない、というのも一つあった。今となってみるとそういうところも意識の中にはあったのかな、と思いますね。

 

— ひとつの挑戦になった、ということですね。

石川:やったことのないことにトライする、という意味では。今まで経験のないことばかりでした。

 

— このMVに対する反響はどうだったんでしょうか。

石川:LGBTに関する議論や理解は一昔前よりも増えていると思うんですが、それらを取り巻く環境や状況は、海外と日本とでやはりまだ差があると思ったので、僕らもどういう反応になるのかなって思っていたんですけど、蓋を開けてみたら、ほぼほぼ好評でした。

YouTubeに投稿されるコメントも「素敵なビデオだ」っていう声もあったり。「高く評価・低く評価」も9割以上は高評価で占めていただいたので、そういう意味では非常に反応は良かったと感じています。

 

— 斎藤さんはこの反応をどのように感じていらっしゃったんでしょうか。

斎藤:この企画として、石川さんがおっしゃっていたようなアリアナのいろいろなチャレンジや背景をファン同士で伝え合って「ああだからこういうビデオなんだ」という盛り上がりが起きればいいな、と思っていました。

 

— 楽曲の歌詞を日本で表現されていたのは、やはり日本人に向けてこのメッセージを押し出すのにこだわったからでしょうか。

石川:そうですね、ビデオも日本バージョンだったのでそこは意識したところでした。

どうしても洋楽の曲は聴いただけだと、メロディは分かっても言葉は分からないことも多かったりするので。やはり今回メッセージ性を伝える、ということに関して言えば、やっぱり歌詞はどういうことを歌っているのかを伝えないといけないと思っていたので、「日本語でメッセージを出す」というところにはこだわりがありました。

ともすればファンの中には「日本語じゃなくていいよ」という方もいらっしゃるんですけれど、今回に関しては既存のファンに向けたというよりは、「アリアナを知らない人」に対して重点を置いていたところもあったので、しっかり日本語で伝えるというところにこだわりました。

 

2つめの施策:これまでのアリアナの歴史を共有する場となった「Ariana Grande “Sweetener” Release Party」

話の流れはこのまま、2つめの施策「Ariana Grande “Sweetener” Release Party」へ。このリリースパーティは、アルバム「Sweetener」が発売された8/17当日の夜、渋谷 PLUG IN STUDIOで開催されていた。

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会場はアリアナ・グランデ一色に

このイベントでは「ストーリーテリングDJ」、COTODAMA社とPioneer DJ社が共同開発した歌詞をビジュアライズするDJソフト『rekordbox lyric』を活用した日本初のDJプレイが披露され、アリアナ・グランデのニューアルバムに至るまでの歴史を体感できるイベントとなった。

このイベントの模様はLINE LIVEでも配信されており、アーティスト本人が不在のイベントとしては異例の盛り上がりを見せたという。

ただの“クラブイベント”ではない体験を生み出したこのイベントの背景について伺っていく。

 

アルバム「Sweetener」への変化とメッセージが、一体となって体感できたパーティ

— 続いて2つめの「Ariana Grande “Sweetener” Release Party」についてお伺いしていきたいと思います。

渋谷 PLUG IN STUDIOで行われたこのイベント、アリアナ・グランデのファーストから最新アルバムまでの歴史を俯瞰しながら体験していくイベントでしたね。TJOさん、カワムラユキさんという2名のDJが、それぞれ異なる魅せ方をしてくれて。実際に私も現場で取材させていただきましたが、会場の熱量がとても高いのが印象的でした。

来場者は一般応募だったんですよね?

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石川:ファンに関しては参加希望を募って、当選者の方が参加していただきました。

 

— 一曲一曲歓声があがっていたのが印象的でした。ですが、ただ “ノッて楽しむ”というイベントではなく、「アリアナ・グランデの音楽を味わう・共有する」というところにしっかり軸を置かれているイベントだと感じました。

石川:だから、LIVEに近かったかもしれないですね。クラブと言うよりは。

 

— たしかにそうでしたね。DJステージの前に透過ディスプレイがありましたが、DJとファンとの間でアリアナの楽曲・メッセージを共有している、そんな空間を象徴しているもののようにも感じました。歌詞のビジュアライズが四方の壁にも投影されていて、包まれている感じが愛に溢れているな、と。

石川:まさにおっしゃるとおりですね。そういう空間になっていました。

 

— このイベントのDJ、日本初の「rekordbox lyric」が使われたイベントになったんですよね。以前、「COTODAMA レコードプレーヤー」を取材をさせていただいたときには日本未発売だと伺っており、楽しみにしていました。

斎藤:10/23から日本でも発売になりました。

 

— 発売に先駆けてという形だったんですね。今回のイベントで重要視した点・大事にした点などありますでしょうか?

斎藤:さきほど石川さんもおっしゃっていたことですけど、最新アルバムまでの断層があるというところ。

どうしても日本のファンには常日頃接しされるわけではないので、前のアルバムと今回のアルバムの間に、どういう心境の変化があって、違うアルバム・違う世界観になったのかというのがファンに伝わりきらないという課題がありました。

そこで、一連のストーリーになるように「DJでストーリーを作っていく」というのをトライした、というところでしょうか。

 

— TJOさん、カワムラユキさんとは、内容についてもだいぶ詰めた状態でイベントが行われたんでしょうか?

斎藤:そういう感じではないですけど、アリアナのストーリーを改めてしっかり共有させてもらって、その中でお二人なりのストーリーを考えてもらったというような。

 

— TJOさんがパワフルに盛り上げつつ、カワムラユキさんが歌詞の世界観に重点を置き魅せてくれたと感じましたが、それはオーダーしたんでしょうか?

石川:それはお任せしました。アリアナの今作のメッセージ性が伝えられればいい、というのがあった上で、どういう表現をするかは完全にお任せした形です。

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イベントがアルバムの発売日当日で、発売日までは先行曲以外は外に出せなかったので、どうしてもかけられる新曲は少なくなっていた、という事情はありましたが。

ただやはり、「何を経てこの新曲に至ったのか」というところ。あの新曲はいきなり出てきたわけではなくて、アルバム3枚の積み重ねがあった故のこの4枚目の作品なので。

その点で言うと「こういうことを歌っていたけど、今はこういうことを歌っている」という、段々と変わってきたところを、セットリストの組み方だったりDJのプレイの組み方だったりで上手く表現していただけた、と感じています。

 

— 何曲かは日本語訳の歌詞でVJされていましたよね。

日本語訳の歌詞が投影された曲では一層、オーディエンスがそのメッセージに見入っているように感じました。やはり音楽に対して「視覚的に歌詞に触れる」というところ、“歌詞を飲み込んでいく”というところにもパワーがあるんだな、と。

石川:やはり見ることで意識がそっちに集中するので、普通のクラブイベントだと、ともすれば(楽曲が)BGMになってしまいかねないものですが、今回のイベントではそうではなく、楽曲があくまで主役になるような構図になっていたので良かったですね。

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実際にいらっしゃった方の反応・評価も良かったです。

 

— LIVE映像も流れていたりしましたよね。一際歓声が上がっていました。

石川:あれはどちらかというと、SIXさんからご提案頂いていたものでした。いろいろと権利的なハードルもあるので、なるべく安全にいくには映像を使わないほうがいいんですけど、どうしてもビジュアル的に文字だけみたいな形になってしまうので。「やはり映像的なものがあるとファン的には嬉しいのでは」というご提案をいただいて。

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確認したところ権利的に大丈夫だということでご提供させていただいたら、やっぱり当日実際に観て思ったのは「映像を使ってよかったな」と。映像が出てくると、歓声が挙がって「本人出てきたのか」ぐらいな反応があったので。

 

アーティスト不在のイベントとしては異例の好評だった LINE LIVE 配信

— 今回はLINE LIVEでも生中継されていたんですよね。視聴数などはどのくらいだったんでしょうか?

石川:1時間強くらい配信して視聴人数はのべ5万人くらいですね。今回はアリアナ・グランデのチャンネルで配信したので、かなりのファンの方が見てくれたのかなと思います。あとはコメントも活発に投稿されていたので、結構アクティブなユーザーも多かった印象ですね。

 

— LINE LIVEの中継は固定カメラで撮影していたんですか?反応はどうだったんでしょう。

石川:固定カメラがいくつか配置されていたので、それをスイッチングしながら、ですね。

ネット生中継ってコメントが荒れがちなんですが、それにもかかわらず、好評なコメントが本当に多くて。「本人がいないLINE LIVEの中継イベント」というのは割とあるんですが、「本人いないのかよ」「本人をだせ」とか、どうしてもそういう風にコメントされがちなんですよね。でもこのイベントではそれも無く、「Break Freeキター!」「この曲好き!」「楽しそう!」とか。中継系であんなに否定的なコメントが無いのは初めてでした。コメントを見ていて、「やっぱり、アリアナ好きなんだな」と。それはびっくりしましたね。

また、あまり見ない形態のイベントだったので「行きたかったな」というコメントもあったので、やってよかったなと感じました。

 

— 会場で盛り上がりを肌で感じて、また、これだけ歌詞・メッセージが綺麗にビジュアライズされているのを見て「これはLINE LIVEで見ても視覚的なインパクトがある画になっているんだろうな」と思いながら見ていたので、納得です。

石川:ビジュアライズが美しかったのはよかったと思いますね。

 

— LIVE映像のところで権利のお話もありましたが、今回のLINE LIVEでは全編配信されていたんですか? LIVE映像もあってさらに配信も、となると、ハードルもさらにあったんだろうなと思ったんですが…

石川:全編配信しましたね。いろいろと確認した結果、問題なくできたので。僕らも普段から権利に関わる仕事ばかりやっているわけではないので、慎重に確認しつつやりました。

洋楽と邦楽で権利の違いもあったりするので、慎重にやりつつ。でもその(権利周りのハードルを感じたものの)最たるものは「Lyricalife」だったので。

 

— 確かに。それでは続いて3つめの施策「Lyricalife ft. Ariana Grande」についてお伺いできればと思います。

 

アリアナのメッセージを自分ゴト化する「Lyricalife ft. Ariana Grande」

そして3つめの施策、「Lyricalife ft. Ariana Grande」にトークは進む。

このアプリでは、ユーザーがアプリで動画を撮影し、楽曲を選択すると自動で曲と歌詞のクリエイティブが生成され、オリジナルの動画が作成できるというもの。

楽曲は「No tears left to cry」と「Break Free」の2曲が収録されており、どちらも自由に選ぶことが可能。日々の思い出の一場面をアリアナの曲と歌詞が彩る新感覚のアプリ、となっていた。

※ 「Lyricalife ft. Ariana Grande」は2018年12月20日まで限定公開

 

Lyricalife 1
「Lyricalife ft. Ariana Grande」 画面イメージ

 

自分ゴト化するためのアプリケーション

— この3つめの「Lyricalife ft. Ariana Grande」を拝見した時、3つの施策のストーリーとして「メッセージを伝えるビデオがあり、そこにたどり着くまでの歴史を体験出来るイベントがあり、そして最後に“自分ゴト化するアプリ”に来た」という流れなのかな、と感じました。やはり最初の企画・提案段階から、最後はこのアプリと決まっていたんでしょうか。

石川:元々は「Release Partyの前にLyricalife」という位置づけだったんですが、権利の都合でずれこんでしまったという経緯があります。ただ、結果的に前後しても大きい問題ではないので全然大丈夫でしたね。

元々、「Lyric Speaker」の技術を使ったアプリがあるというのは、最初にお話をする中でご提案いただいて。「めちゃくちゃいいじゃないですか、ぜひやりましょう」という感じだったんですが、そこから権利をいろいろ確認していって、なんとかローンチにこぎつけたというところですね。

 

— そうだったんですね。

石川:最初のリリックビデオ はどちらかというと「こちらが一方的に見せる/ユーザーに見てもらう」というもののひとつで。Release Partyは、LINE LIVEでの配信は行いましたが「限定的な人が来て、楽しんで」というものになってしまう。

なので、もうちょっと幅広く、気軽に、かつより自分ゴト化できることがないだろうか、というところがありました。その足りていなかった役割を担ってくれたのが「Lyricalife」なのかな、と。

特に最近だとTikTokなどもとても流行っているので、「音と映像」みたいなところはもう一般化していると思うんです。けれど、そこに「歌詞」も重ねられるというのはTikTokでも出来ないし、他でも見たことはなかったので。

このプロジェクトを通じてやってきたことの「芯の部分」が残っているのかな、と思っています。かつ、そういう物を作ったことによって、アリアナのことを知らなくても、そういうクリエイティブな部分に興味を持ってやってくれる人もいたらいいな、という思いみたいなところはあります。

 

— 実際に自分も試してみたんですけれども、自分の思い出の映像にメッセージを載せると、歌詞と自分の体験がクロスして、また違った楽曲への思いが生まれる感じがして。非常に面白かったです。

今回のアプリでは「No tears left to cry」と「Break Free」の2曲が選べるようになっていましたが、どのように意図した選曲だったんでしょうか?

Lyricalife 2

石川:本当は入れられるのであれば、全部入れたかったんですが、権利的にハードルがあったので。
ただ一番メインの楽曲である「No tears left to cry」は外せなかったというのと、アリアナにとっての最大のヒット曲である「Break Free」は入れたかった。やっぱり日本人も馴染み深い曲だし、LIVEでもかかると一番盛り上がる曲でもあるし。曲名は知らない人でも、聴かせると「これね」となると思ったので。

「Break Free」は2014年の楽曲なので、もう4年前になるんですが、Release Partyのコンセプトでもあった「過去のアリアナと今のアリアナをクロスフェードさせる」という意味合いもありましたね。

この“過去とのクロスフェード”というところは、SIXさんのアドバイスも頂きながらのものでした。

 

アーティスト/アルバムプロモーションで新しいことにチャレンジするために必要なものとは

— 今回の一連のユニークな施策についてお話をお伺いしていて、アーティスト・楽曲のメッセージを本当に大切にしているなと感じています。そういった思いが、アーティストのプロモーションで「新しいこと」をやろうとする上で重要になるのかな、と思ったんですが、どう思われますか?

石川:洋楽の場合には四六時中アーティストが日本にいるということはありえないので、どうしても日本独自のことをやらなければいけないことが多い。そうなると、どうしても定番メニューみたいなことが増えてきちゃったりもするんです。

もし今回、アリアナが出した曲が今までのような曲だったら、定番メニューになったかもしれないです。ただ今回の楽曲はそこが違ったので、そういう意味でのチャレンジは必要だと思いました。

 

— なるほど、楽曲・アルバム自体がメッセージ性のある特別なものだった、ということも重要な要因だったんですね。

石川:あとは、今回に関しては、SIXさんがCOTODAMAプロジェクトでおっしゃってたコンセプト(「音楽のデジタル配信の推進によって失われた、歌詞をじっくり楽しむ機会を取り戻す」)もありますね。

話を聴いていて「確かにな」と思ったんです。今でこそサブスクなどが発達してますが、CDを買っていた頃は、聴きながら歌詞カードを読む、という経験が多かった。歌詞カードを読みながら聴くと、音だけ聞いていたときには汲み取れなかった部分まで汲み取れたりして。「あぁ実はこういう構図になっていたんだ」、「実は1番はこっちの目線で2番はこっちの目線で…」みたいな発見が今まではあったから。

そういった体験の現代版みたいなことをやっていきたいんだ、っていうことをおっしゃっていて。そのコンセプトがすごい素敵だなって僕は思っていました。

そういう「“歌詞体験”みたいなところを今一度復興させよう」というコンセプトと、「歌詞に込められたメッセージ性をしっかりと届けたい」というこちらの思いみたいなものが一致した、というところが一番大きかったんじゃないかな、と思っています。

 

— なるほど、そうした「思いとコンセプトの共鳴」みたいなものがあってこそなんですね。

 SIX/COTODAMAとしては、考える思想にマッチした一連の流れだったように思うんですけれども、このプロモーション・プロジェクトを通してみて、どのように感じられていますか?

斎藤:そうですね…でも言葉が刺さったな、というリアクションが見られて、そこはワークしたのかなと感じています。LINE LIVEの反響はとてもよかったですね。

 

石川:とても良かったですよね。

 

— 今後もこういったコラボレーションが出てくることを、そしてそれができるパワーの持った楽曲やアーティストが出てくることを楽しみにしています。

石川:これは完全に個人的な意見ですけど、ユーザーの消費傾向ではないですけど、聴き方みたいなところが変わってきたと感じているんです。

一時期の消費的な音楽シーンの流行りから、最近はきちっとメッセージのある、中身のある曲だったりアーティストだったりが評価される世の中に変わってきたと思っていて。

サブスクの普及で音楽に触れる機会が圧倒的に増えた、そうなると、リスナーの耳も良くなってきているのかな、とも思います。

洋楽はどうしてもメッセージ性を伝えづらいというところがあるんですが、そういうユーザーの変化するところに、メッセージ性のある洋楽を差し込んでいけたらな、と考えています。

 

— 本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

音楽のメッセージが持つパワー、それを伝えるテクノロジーにのせる思い

今回、アリアナ・グランデの2年ぶりのアルバム「Sweetener」リリースに伴うプロモーション・プロジェクトについて、貴重なお話を伺っていくことで、施策の面白さと共に、改めて「音楽の持つメッセージ性」と、それが持ちうるパワーの大きさ・強さを再認識することができた。

このパワーに向き合い、その価値をリスナー・オーディエンスに届けるために何が出来るのかを真摯に考えること。それが、音楽の力を一層引き立てる施策に繋がっていくのだと感じる。

パワーをもつ音楽を生み出すために、またそれをより引き立たせるために、何ができるか。またテクノロジーで新しい可能性が生み出せるのかについて、BAKERYでは今後も注目し発信していく。

 


Yuki Abe

Yuki Abe

マーケティングコミュニティプラットフォーム「cocosqure」の開発 及び 音楽・エンターテイメント音楽とテクノロジーを掛け合わせたプロダクト/サービスの情報発信および開発を行っている“エンターテック・テクノロジスト/ソフトウェアエンジニア”。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。