三者の対話から垣間見える、OPNの「音と視覚の宇宙」 ー 『trialog vol.3』レポート
カテゴリ:イベント/LIVE
2018-10-05

元WIRED編集長の若林恵氏とソニーが仕掛けるプロジェクト/イベント『trialog』(トライアログ)。そのvol.3にスペシャルゲストとして、革新的な音楽とパフォーマンスで世界中を魅了する Oneohtrix Point Never(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、OPN) ことダニエル・ロパティン氏と、彼のパフォーマンスをビジュアル面から支えるビジュアルアーティスト ネイト・ボイス氏が登壇した。

この回のテーマは「SOUND, SPACE & UNIVERSE(S) 音と視覚のさまよえる宇宙」

広大かつ独自な世界観・体験を生み出す二人。彼らのクリエイティビティの源泉や見据える未来を「対話」を通して探った今回のイベントは、音楽、映像クリエイターにとって刺激に溢れたものとなった。

 

ネイト・ボイス氏と水口哲也氏、浅川哲郎氏が対話する『視覚と聴覚をグルーヴさせるためには』

共通する「影響を受けたアーティスト」とは

Part1 01

 

「60年代後半に『Irregular Polygon』シリーズを制作したフランク・ステラというアーティストを知っているだろうか。彼は僕のDNAになっている、ぜひ検索して見てほしい。」

このイベントの前日に日本でも初公演された最新のコンサートプログラム『MYRIAD』の象徴とも言える “幾何学的なプロジェクションスクリーン”。そこに投影されるたくさんのオブジェクトから、キュビズムの影響を感じた、という質問を受けたビジュアルアーティスト ネイト氏の回答だ。「長方形のサーフェイスの中でイメージ・映像をどう壊していけるか、衝突するようなものをどう組み込んでいけるかを意識していた」というネイト氏。

影響を与えたアーティストの存在がうかがえる。

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第二部にて映像で紹介された、ステージ後方に配置された幾何学的なスクリーン

 

このSESSION1では『視覚と聴覚をグルーヴさせるためには』と題し、彫刻や変形スクリーン、映像を取り入れた演出でOPNのパフォーマンスを支えるビジュアルアーティスト ネイト・ボイス氏、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也氏、ソニー・ミュージックコミュニケーションズのプランナー浅川哲郎氏という、異なる方面から映像に携わる三者によって対話が進んでいく。

前半ではネイト氏と水口氏とで、影響を受けたアートクリエイター・芸術運動について話題が及んだ。水口氏は Rez において影響を受けたアーティストとして、「音のインスピレーションから抽象絵画を書き続けた人」 ワシリー・カンディンスキーを挙げる。
また、水口氏・ネイト氏が共通して影響を受けているものとして、イタリアの芸術運動「未来派(futurismo)」を挙げ、特にネイト氏は未来派のアーティストであるウンベルト・ボッチョーニを挙げた。

「彼の作品は時間を加速させている、と同時に時間がゆっくり進んでいるようにも感じる。いろいろなものが入り組んでいて、とても興味がある。」

 

新しいテクノロジーの登場に対して、どのような映像表現を行なっていくか

そして対話は、ネイト氏の「映像表現の今後」へ。

「古くは100年以上前のアーティストが頭の中で描いていたことを表現する方法は、当時限られていた。けど、今僕らは映像と音を融合させて、それを例えばVRやAR、MRなどで、将来的にはそれを音楽を見るような体験ができる手前にいる。」水口氏はテクノロジーの現在をこのように語る

さらにネイト氏に対して「この先どういう表現に向かっていきたいか?」と質問を投げかけると、ネイト氏は次のように答えた。

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「今はプリレンダリングでやっていて、かなり柔軟性がある。今後の可能性を考えると、プリレンダリングしたものをさらに処理するような、インタラクティブなものが考えられる。それにはゲームエンジンの活用が考えられるけど、僕はいつも“世間一般が使い慣れた技術”を使うようにしている。その方がより“表現”を理解してもらいやすくなると考えているから。だから、みんながゲーミングエンジンに使い始めたら、僕も使い始めるかもしれない。」

「物と物にどういった関係性があるのかを改めて考えていきたい。」

「VRは面白いと思うけど、僕は常にライブショーに関心を持っているんだ。どのように意義のあるショーを作れるのか、感情的なものをつくれるか。ただあっと言わせるだけでなく、エモーションな体験/肉体的な体験を実現したいと思っている。」

「オーバーラップするAR/MRについては、まだよく分からない。ただ私は一つの体験を(オーディエンスで)共有して欲しいと思っている。一人ひとりに別個の体験をさせることには興味があまりない。主観的な体験での範囲内で体験を共有したい。」

 

このように語るネイト氏。そして、現在興味を寄せる技術として “Visual Synthesizer” を挙げ、「将来的にはサイバネティックなジャムバンドとかもやるかもね。」と今後の可能性についても言及した。

 

ネイト氏の「本当の欲しい未来は?」

その他にも第一部では、 “チームでクリエイティブを創っていくという昨今の流れ” や “ビジュアルアーティストとサウンドアーティスト、ミュージックのアーティストのコラボレーション” 、 “ロックスター化する映像作家についてどう思うか” など興味深いトピックが続く。最後に「本当の欲しい未来は?」と問われたネイト氏。

将来的に、音楽でイマーシブな劇場のようなプロダクション・演出をやりたい、物理的な彫刻や舞台デザインから入ってね。映像や絵画のような2次元的なものから、彫刻のような3次元的・物理的なものまでやってきたので、幅を広げながらそれらを統合していきたい。」と回答し、このSESSION1を終えた。

 

ダニエル・ロパティン氏とネイト・ボイス、若林恵による『「MYRIAD」という幽玄な世界の秘密』

SESSION2では『「MYRIAD」という幽玄な世界の秘密』と題し、 Oneohtrix Point Never ことダニエル・ロパティン氏、SESSION1から続いてネイト・ボイス氏、そして若林恵氏が登壇。

最新コンサートプログラム「MYRIAD」を、ネイト氏と共に実際の映像を見ながら、LIVE演出・映像のコンセプトや制作背景についてプレゼンテーションする、という貴重な機会となった。

Opn

NY市立図書館のアルバイトでの経験から、劇場やオペラのようにエレクトリックミュージックを表現することに関心があったというダニエル氏。
「これまでの多くの場合、私たち二人がスクリーンの前に立って、後ろに大型の長方形のスクリーンがあって、というようなセットで。そこでネイトが、私が恐怖を感じないように空間を埋めるものだった。ただ、プロジェクションの裏にあるスペースに関心を持つようになってからは、シアターのようなレイアウトの中で体験を提供できるようにした」とダニエル氏は語る。

続けてネイト氏も「MYRIADは、スクリーンの後ろに照明があることが興味深い。通常は空間には終わりがあるが、それがわかると圧迫感があって不快になる。」と話す。重ねてダニエル氏は「音楽の力は空間的な〈錯覚〉を演出することだ」とし、「直観的な錯覚を生むこと。錯覚をできるだけ面白くすることが僕たちの役割だ」と語った。

 

その後、「MYRIAD」の実際の映像を投影しながら、その解説が行われていく。

“Ecco”、“Harvest”、“Excess”、“Bondage”という4つのパートに分かれている「MYRIAD」のストーリー。このコンセプトを理解するために、ネイト氏は古代の彫刻について調べたりした、というエピソードも明かした。

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「Babylon」や「Warning」などの映像を投影しながら、そのコンセプトや意図についてプレゼンテーションするネイト氏・ダニエル氏

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「スーパーフィシャルなものに対するLOVE SONG」だという「Babylon」では街に浮かぶ象徴的なオブジェクトについて言及。これはダニエル氏からの珍しいオーダーだった。

 

ダニエル氏はネイト氏についてこう語ったのが印象的だ。
一見意味が分からないかもしれないが、表層の下に隠れている感情、そういったものをネイトはビジュアルアーティストとして表現することができる。単純にではなく、どういったものになりえるのかを表現できるんだ。

また、興味深かったのは、若林氏からの「ダニエルの音楽とネイトのビジュアルがフィットしないことが起こったりするのか?」という質問に対してのダニエル氏の答え。

逆にフィットしてほしくない。あまりにもシンクロしたものを作ることに恐怖を感じていた。必ずしもハーモニーである必要はなく、創造的な破壊や合致したりしなかったりが面白い。いろいろな寓話・メタファーが初期にはあったが、今はより意図をもってオーディオとビジュアルを作っている」と、自身のバックグラウンドについて触れながら、現在の音楽とビジュアルとの関係性を語った。

 

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SESSION2ではQ&Aのコーナーも。ロゴについてダニエル氏が語る。

 

SFの視点から紐解くOPNの現在と未来 『多層的/複数的な宇宙を巡って』

SESSION3では『多層的/複数的な宇宙を巡って』と題して、『Age Of』歌詞監訳も行っているSF作家 樋口恭介氏が登壇。SFの視点からOPNの“宇宙”を探っていく。このSESSION3はまさに「対話」が繋がり、どんどんと視点が広がっていくものとなった。

 

『Garden of Delete』、『音源とLIVE』…様々なレイヤに現れる “フランケンシュタイン的な性質”

樋口氏が第五回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞した作品『構造素子』は、OPNのアルバム『Garden of Delete』に影響を受けているという。樋口氏はこう語る。

「『Garden of Delete』は過去に流された音をサンプリングして、普通に音楽を聴いていたら想像し得ないような組み合わせで鳴らしている。グロテスク・ポップというコンセプトだったと思うが、一つ一つの音色はグロテスクにもかかわらず、一つの作品としてはポップに聞ける。『構造素子』においては『この単語は知っているけど、この文脈で使われるのは見たことがない、でも一つの作品としては統合されている』というものを目指した。」

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ダニエル氏もこの樋口氏が考察する『Garden of Delete』の構造に対して、“フランケンシュタインの怪物”のようだと表現した。

「フランケンシュタインは、アイディアとか物理的にも肉体的にもぐちゃぐちゃなものが一つになって怪物になっている。
それがものすごくクラシックな存在になっているのが面白い。モンスターというのは人間がものすごく惹かれるものの一つ。そういうものを作りたいと思った。」

それを受け取った樋口氏は、さらに前日の公演から感じたことへと対話を進めていく。フランケンシュタインの“肉体と機械的なものがくっつく怪物”という視点を、前日のLIVEに紐付け、「OPNの音源はとてもテクノロジーに支えられた“非人間的・機械的なもの”という印象を受ける一方、昨日のLIVEは身体性に富んでいて生っぽいものでもあった。意図的に変えていたりするのか」質問し、LIVEに対するダニエル氏の意識を深掘りしていく。

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ダニエル氏は、LIVEでフィジカルの部分に強調を置くようになってきたことを認め、その理由と可能性をこのように述べた。

「LIVEの空間において楽器を実際に弾くということ、そこではコントロールを失ったり、失敗したり、新しいアイディアが生まれたり、という可能性がある。」

「ラップトップからLIVEで演奏することによって、ダイナミクスが失われるということに自分はすごくがっかりした。」

「そこでどうすればいいんだろう時に、JAZZのアプローチに立ち戻った。」

そして改めてフランケンシュタインのメタファーとかけての、この発言が印象に残る。

「今のアンサンブル・グループはフランケンシュタインみたいなところがある。違う人が集まって、自分をより強くしてくれる。そのアンサンブルでプレイしていて、自分が居心地の良い場所から出ていかなければいけない、自分よりももっと優れたアーティストを集めてついていかなければならないと気づいた。フランケンシュタインは(マッドサイエンティストの)『夢を見て、自分の限界を超えてしまう。夢を見てしまったことで、コントロールできないものを生んでしまう。』というメタファーにもなっているね」

 

ダニエル氏にとってワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとは

樋口氏から「ダニエルにとってワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとは何か」と抽象的な質問が飛ぶと、ダニエル氏はOPNに込められた意味をこう説明する。「コンピューターの持つトリック性を永遠のものにする、ということだ」

さらに、「音楽を体験すること」は「ものすごく大きなイリュージョンである」とOPNの音楽について語った。

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終盤、ダニエル氏はテクノロジーについてこう語った。「コンピューターでの作曲のいいところは、シンフォニーの全てを一人で構築できること。私がSFを好きな理由は、タイムトラベルで歴史を飛び越えながら、世界の全体像を知ることができるからだ」。

自分が魅了されているのは、一言でいえば世界なんだろうね

 

「三者の対話」によって、深まり拡がる視点 今後のtrialogはどんな未来を探るか

ダニエル・ロパティン氏とネイト・ボイス氏というスペシャルゲストを迎えた『trialog vol.3』は、異なる視点を持つクリエイター三者による3つの対話を通して、筆者がイベント前に想像していたよりも遥かに深く、広いOPNの世界を見せてくれた。そして彼らの放つ言葉の一つ一つに、クリエイターとしての視野を広げる発想があるように感じる。

このイベント終了後、trialog代表・若林恵氏とSF作家・樋口恭介氏による「クロスレビュー」が公開されている。そちらの内容もぜひご覧いただきたい。

 

今後も『trialog』は、定期的に開催されていくという。次はどんなテーマで、どんなメンバーによって対話が行われていくのか。新たな創造を試みるクリエイターは、自身の思考を拡げるために、この「教わるのではなく、探る」という数少ないイベントをチェックしてみてはどうか。

 

リンク:
『trialog』 オフィシャルページ
https://trialog-project.com


2018-10-05 | Posted in イベント/LIVE | by Yuki Abe
Yuki Abe

Yuki Abe

マーケティングコミュニティプラットフォーム「cocosqure」の開発 及び 音楽・エンターテイメント音楽とテクノロジーを掛け合わせたプロダクト/サービスの情報発信および開発を行っている“エンターテック・テクノロジスト/ソフトウェアエンジニア”。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。