音声合成と自由対話AIによる AI×キャラクタービジネスの最前線「AI MEETUP 2」レポート
カテゴリ:AI, イベント/LIVE
2018-10-31

“AIとキャラクターのかけ合わせ”にフォーカスしたイベント「AI MEETUP」。その第二回目となる「AI MEETUP 2 『キャラクタービジネス最前線』」が2018年9月に開催された。

第二回のテーマは『音声合成 × 自由対話AI このふたつの組み合わせがAIキャラクタービジネスを変える。』。

研究者、開発者、さらには声優という複数の登壇者の視点から、AI×キャラクタービジネスの現状と可能性、現在進行中の実践について語られた。今後エンターテインメント領域におけるAI活用を考えるための刺激に溢れたこのイベントをレポートする。

※ 関連記事
『AIとキャラクターの未来を覗く「AI MEET UP『AI×キャラクター・ビジネスの展望』」イベントレポート』
https://www.bakery-lab.tokyo/2017/10/ai-meet-up-report/

 

いかに人工知能に煩悩をもたせるか 〜 三宅氏

第一部は前回の AI MEETUP と同様、AI開発者 三宅 陽一郎氏による講演からスタート。

ゲーム会社でリサーチャーとして勤務する傍ら、AIに関する著書、特に哲学の方向から人工知能について迫る『人工知能のための哲学塾』の著者ならではの視点を交えて、10分という短い時間で「なぜ人工知能は人と会話ができるのか?」を分かりやすく伝えてくれた。

「ロボット」と「人工知能」、「人間」の三者が協調しあうことが重要となる今後の社会。そこでより重要となるのがコミュニケーションのための『言葉』と、『AIの姿・見せ方』。話題は“西洋と東洋の人工知能観の違い”について展開していく。

特に、クリエイターとしても刺激的な概念だと感じさせてくれたのが「人工知能(開発)とは“どう煩悩を与えることができるか”」であるという考え方だ。

「ポリゴンのキャラクターを作り、ゲーム世界に置いたとする。するとキャラクターは微動だにしないし、世界に対して何の執着もない。これはほぼ“解脱”していると言える」という三宅氏。

ラベル付けしたデータを与えることは “色のないAIの世界への色付け” であり、「キャラクターに『あいつを倒して、あのキャラクターを守り、あの草は美味しい』と教えていく。するとキャラクターはどんどん世界に執着していく、つまり堕落していく。」という考え方、これはクリエイティブの領域でAIを活用する際の考え方としても、実に魅力的かつ刺激的だ。

 

そして終盤、改めて日本におけるAI活用について「言語処理では遅れているが、キャラクター文化では秀でている」ということ、そして「キャラクター・エージェント思考」について触れて、第一部を終了した。

 

キャラクターAI、それを支える音声合成技術の制作の裏側

第二部では、合成音声技術とキャラクターAIについて、多彩な登壇者が登場した。第一回と同様の

  • 結束 雅雪 氏(株式会社emotivE)
  • 井上 敦史 氏(ソニー・ミュージックエンタテインメント)
  • 松平 恒幸 氏(ソニー・ミュージックコミュニケーションズ)

という3名に加え、シークレットゲストとして声優の寿 美菜子 氏が登壇、会場を沸かせた。寿氏はソニーと共同通信社が2016年より運用している『バーチャルアナウンサー 沢村碧』の声も担当している。

そんな企画者・開発者・声優という異なる視点から語られた最初のテーマは「劇的に進化した音声合成のテクノロジー」、キャラクターを伴う音声合成の制作の裏側について語られた。


 

音声合成を支える声優の技術

第二部前半では松平氏から、キャラクター×AIにおいても重要となる『音声合成』について、その制作の裏側について紹介された。

実際の音声合成の制作工程は以下のようになっているという。

初段に『許諾取り』が挙がるのがキャラクターの音声合成制作ならでは。未だ音声合成の面白さについては認知がされていないため、事務所・権利者・製作委員会への丁寧に話し合いながら進めていくのだという。

つづく『音声収録』では、音声合成を支える声優の技術力についてトークされた。技術が進み、誰でも作れると思われがちな音声合成だが、実際に高品質な音声合成を制作するには、声優の高い技術が必要だという。

 

音声合成は声優の仕事を奪うのか

そしてこのパートと、さらにはイベント終盤のQ&Aで挙がったのが『音声合成によって声優の仕事は奪われるのか』という話題だ。

松平氏は『音声合成は“演技”ができない』という点を何度も挙げる。

「音声合成は既にあるキャラクターを引きずっている。演技が必要なものは声優、不要なところでは音声合成が活用されるのではないか」、さらに「音声合成は拡張的なものであり、声優にとっての新たなリカーリングビジネスとなり得るのでは」という見解を示した。

実働への対価として報酬が支払われる“既存の声優業”に加わる形で、一度制作すればそのキャラクター・用途においては繰り返し利用可能な“音声合成によるレベニューシェア”が加わるという構図。ただ仕事が奪われていくのではなく、AIとこうした役割分担がされることによって、新たな可能性が生まれうる、という考え方の例になりそうだ。

 

インターフェースとしての“キャラクター”の重要性、そして新たなサービスの紹介も

さらにこの第二部では、これまでのソニー・ミュージックとemotivEによる Project Samantha での経験を元に、“AIのインターフェースとしてのキャラクターの重要性”が語られた。さらに、新たな『AI×キャラクタービジネス』の最新事例も紹介されている。

 

会話のコストを超えうる、“キャラクター”というUIの可能性

この一年でさらに、『罵倒少女×〇I〇I AI(人工知能)に罵倒される春休み~おいおい、誰が望んでるんだよ~』(リンク)や『経済系対話AI インベスターZ~神代部長に訊け~!』(リンク)など、新たな実践を重ねてきた自由対話AIプロジェクト『PROJECT Samantha』。

これらプロジェクトを通じての新たな気づきとしてシェアされたのが、「人がAIに話しかけるには、多くの動機が必要となる」というものだ。

 

人は会話の中で、「感情・欲求・経験を認識して、それを無意識に分析して会話」しており、AIに対しても“話せる”と思った瞬間に同様のクオリティを求めてしまうのだという。

対話をエンターテインメントとして提供するAIは、このコストを超える応答を続けなければならない、というのがチャレンジと鳴る。

このチャレンジへの一つの解が AIとキャラクターの掛け合わせによる「好きなキャラクターと喋りたいという根源的な欲求」の活用だ。既に存在するキャラクターであれば、そこには既に文脈が存在し、さらにアニメキャラクターであれば、前述の音声合成技術を活用することで、より価値のある(とファンが捉える)対話を生み出すことができる。

AIと対話するエンターテインメントという点で、“キャラクター活用は”ひとつのキーになりうる。

 

キャラクターを選べるスマートスピーカー『QUUN』

そんなキャラクターを活用した新たな事例として紹介された一つが、ソニー・ミュージックと九州電力が共同でサービスとして提供開始しているスマートスピーカー『QUUN』だ。

動画にもある通り、この『QUUN』にはキャラクターが複数用意されており、お気に入りのキャラクターをお気に入りの名前で呼びかけ、共に生活ができる。

今回の「AI MEETUP 2」では実機が特別に用意され、実際に寿氏が話しかけ応答を体験するデモも行われた。

ソニー・ミュージックは今後九州電力と組みながら、このQUUNに様々な人気キャラクターを搭載しプロデュースしていくという計画も進めているという。

 

記憶を活用し、欲求を解したキャラクター応答を生み出す emotivEの新AI『OMOIKANE』

さらに、対話AI専門の独自技術を持つ会社 emotivE からは、PROJECT Samantha の経験を生かした新しい自由対話AI『OMOIKANE』が発表された。この『OMOIKANE』では「記憶を活用し、欲求を認識して、最適な応答をする」ことにアプローチしている。

 

前述の通り、人は会話において、無意識にコストを測りそれを上回る価値を対話に求める。その際に重要となるのが『会話の変化』だ。

記憶が無いAIの場合、変わらない応答しかできない。それに対して『OMOIKANE』では、言われたことを経験・体験とし、その記憶情報とAIの性格・機嫌・キャラクター性を用いて、より人間らしく欲求を理解した応答をするという。


『OMOIKANE』の記憶を活用した対話イメージ。より人間らしい対話になっている。

 

より人間らしく魅力的で、会話がしたくなるAIが実現されれば、さらに活用される領域は増えていくことが期待できる。この『OMOIKANE』は2018年11月より、Project Samanthaとして順次サービスをローンチしていくという。

 

音声合成と自由対話AIによって実現されるキャラクターが、AIとのコミュニケーションを変えていく

第二回となり、新たな事例や学びがシェアされ、より深いイベントとなったこの「AI MEETUP 2」。音声合成、キャラクターAIの技術の進歩と、その応用の可能性を感じられるものとなった。

キャラクター文化と親和性が高い日本として、「あのキャラと会話できる」というファンの夢の実現にとどまらず、より様々な分野において、AIとキャラクターのかけ合わせが増えていくと思われる。

日本、そして海外に向けてどのようなサービスが現れるか、注目していきたい。

 

2018-10-31 | Posted in AI, イベント/LIVE | by Yuki Abe

Yuki Abe

音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。