音楽カルチャー・ビジネスの最前線を東京から発信した「TOKYO DANCE MUSIC EVENT 2017」から見る7つのトピック
2017-12-18

日本・渋谷から世界に向けて、ダンスミュージックを軸に音楽カルチャー、ビジネス、マーケティング、テクノロジーの最前線について発信するイベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT 2017」(TDME2017)が開催された。

11月30日・12月1日と開催され多くのトーク・ディスカッションが行われたCONFERENCEパートを軸に、当記事ではどのようなトピックが語られたのかをBAKERY視点でピックアップしレポートする。

日本最大級の音楽ビジネスイベントとなったTDME2017で何が語られたか、それを通して世界から見た日本における課題・チャレンジすべきことを知ろう。一本一本のセッションがひとつの記事になるほど濃厚だった本イベント。そのエッセンスが少しでも伝われば幸いだ。

 

MAIN STAGE

 

2ステージにて並行し、音楽ビジネスの未来について語られた2日間

TDME2017のカンファレンスは渋谷ヒカリエホールにて開催された。

MAIN STAGEとなったのは「ホールA」。12月1日夜にはSpinnin’ Sessionで盛り上がることになるこの会場も、日中は席が並べられ落ち着いた雰囲気に。ただ普通のカンファレンスイベントとの違いを感じるのは、会場の後方に置かれた華やかなPEACH TREEのブースや、上手サイドの日本文化を感じさせる装飾。華やかな空間で音楽ビジネスの最新の視点について展開されていく。

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またもう一つのホールBでは、“テクノロジー”をフィーチャーした「TECH STAGE」として、音楽ビジネスにおける重要トピックである「テクノロジーの活用」の日本最前線を走るプレーヤー達が登壇し、実践的な内容が語られた。

TECH STAGE引き

 

 


ピックアップ1:日本のマーケットの特性、その中でサブスク/ストリーミングをどう伸ばしていくか

TDME2017では多くの海外ゲストが招かれ、世界の最新の視点から日本やアジアの音楽ビジネスについて考察するセッションが多く見られた。これもTDMEというイベントならではの特徴と言える。

TDME2017カンファレンスの最初のセッションリポート:日本の音楽業界のディジタル将来(Music Allyより)では、音楽ビジネス/ストラテジーの世界的メディア「Music Ally」(http://musically.com/)のSteve Mayall氏とChiara Michieletto氏によって、海外視点からの日本の音楽マーケットについての考察が展開された。

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日本といえば、CDを代表とする“フィジカル”が未だ強い傾向にあるというイメージがあるが、興味深かったのが「Japan is already a digital-first market(日本は既にデジタルファーストなマーケットである)」という点。主な音楽視聴手段の第一位は既にYouTubeというプラットフォームを使った“デジタルでの音楽聴取”となっていることが数字として示された。

感覚としては持っていたものの、数字として改めて示されることで、既に音楽体験の主戦場が移っていることを強く感じる。

ただそんな中でも、日本市場におけるストリーミングの比率はまだまだ低い。この要因としてストリーミング配信がされていない楽曲の多さだとSteve氏は言う。(Billboardランキングを引用し、その中でストリーミングサービスにて聴ける曲の少なさを示した。)

またSteve氏はストリーミングに取り組むメリット・重要性のもう一つの観点として、プレイリスターをきっかけにグローバルな人気を獲得した「DJ Mitsu the Beats」を例に挙げ、「ストリーミングサービスに楽曲をあげる事によりグローバルへアプローチできること」を挙げた

デジタルファーストとなった音楽聴取における今後の伸び代として、さらに海外展開に向けた視点としてもサブスクリプション型のストリーミングサービスはやはり重要なチャネルだと再認識させられる。

 

この“海外視点からのストリーミングの可能性”に対応するような形で、次のセッション「メジャーレーベルから見る:ストリーミング・サービスに対する取り組み・企画では、ユニバーサルミュージック 佐藤 宙氏、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル 赤林 勇太氏、エイベックス・エンタテインメント 米田 英智氏によって、メジャーレーベルにおけるストリーミングサービスへの取り組み・企画についてトークが交わされた。

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いずれのメジャーレーベルもサブスクリプション時代に向けて、日本市場と海外市場の違いに触れながら行っている。そのさまざまな取組をシェアした。

やはり前述でもあった「サブスクに行ったときに楽曲がある、という重要性」が語られ、普及に向けては「ストリーミングでの成功アーティストの登場」「ハードウェアとの掛け算」「APIを使った一層のデータ分析」などが重要であると展開。ストリーミングを推進していくために行われているメジャーレーベルの取り組みが聞けるセッションとなった。

 

さらに2日目でもサブクスリプション・ストリーミングサービスについて語られたセッションが設けられていたことからも、注目度と重要性が窺える。

Forbes 紙の音楽ビジネスライター Cherie Hu 氏から見る、日本の音楽ストリーミングでは、PARADE ALL 鈴木 貴歩氏がモデレーターとなり、Cherie Hu氏とAWA 小野 哲太郎氏をスピーカーに迎えて、日本市場における音楽ストリーミング事業の実状、またプレイリストとファンとの関係性という興味深い内容となった。

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EUにおけるSpotifyの普及の要因として、プレイリストやレコメンド・アルゴリズムを挙げつつ、AWAにおけるそれらへの取り組みや状況を小野氏へ質問するCherie Hu氏。

現在はシェアよりもパーソナルな利用が多いプレイリストに対して、より自由に発信したい人は発信できる環境を、という小野氏のトークが印象的なセッションとなった。

 

また同じく2日目には 音楽定額制配信サービスの現状と題し origami PRODUCTIONS 対馬 芳昭氏、TuneCore Japan 野田 威一郎氏、Spincoaster 野島 光平氏によるセッションも行われている。

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このセッションでは世界と日本の音楽マーケットについて具体的な数字を挙げながらその現状がシェアされつつ、“世界120カ国以上に配信できる音楽サービス”と“実力派アーティストをケアするプロダクション”、そして“音楽メディア・コミュニケーション”という三者それぞれの視点から、サブスクリプションサービスの特徴やメリットデメリットについて議論が交わされた。

SpotifyやApple Music、LINE、AWAといったプラットフォームそれぞれの特徴の違いは実に面白い。プラットフォームの違いを理解した上で、それを活用し適切なところにアプローチしていけるかが今後のポイントになりそうである。

 

このように、海外や日本、そして配信事業者やコンテンツホルダーなど様々な視点で語られたストリーミングサービスの可能性と重要性。今後もこの伸び代に対して、いかに取り組み活用していくかが問われているように感じるトピックであった。

 

 


ピックアップ2:音楽とブランド・企業のかけ合わせ

BAKERYで注目したトピック2つ目は「音楽とブランド・企業のかけ合わせ」だ。
様々なカンファレンスでも注目を集めるこのトピック。音楽の持つ“記憶に焼き付き、感情を動かす力”を企業やブランド、プロダクトにいかに活用するか、そして「音楽とブランド両者にとってwin-winとなる在り方」について、TDME2017でも多くが語られた。

Spinnin’ Recordsのパネル:ダンスミュージックにおけるブランドタイアップでは、モデレーターにiFlyer のJoshua Barry氏、スピーカーとしてSpinnin’ RecordsのSteven de Graaf氏とTom de Jong氏が登壇し、Spinnin’ Recordsにて行われているダンスミュージックのブランドタイアップについて語られた。

新たなスター・タレントを発掘することでも知られているEDM最大手のレコード・レーベル「Spinnin’ Records」。このレーベルがいかにブランドのタイアップを活用し、またスターを発掘・発信しているかが語られた。

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音楽とブランドがオーガニックに統合されることが重要であること。また、YouTubeに挙げられた動画や開催したイベントのムービーに触れながら、ブランドのタイアップを味方につけることでよりクレイジーなアイディアを実現していくこと、さらにそこから新たなスターを発信し成長させていくことの重要性を挙げ、またその中でも動画・SNSの活用が重要性であると語られた。

 

また、日本における音楽×ブランドのケースとして「企業ブランドとダンスミュージックのインターセクション」では、テイ・トウワ氏と電通 松井 浩太郎氏がご登壇。LEXUSブランドにて取り組まれた「記憶に残るブランド体験」について濃いセッションが行われた。後段でも述べるが、アーティスト自身の口からその思いや観点を聴けるのは実に嬉しい

「これまでより若い世代を刺激する」というミッションに向けて、「FREE DOMMUNE ZERO」でLEXUSに乗ってゲーム的にVJが体験できるイベントの開催、“車を売らない”ショールーム、レコードレーベルなど意欲的に取り組むLEXUSブランド。それをアーティストとして支えるテイ・トウワ氏の視点から語られることで、強さを持つダンスミュージックのちから、またイベントの持つ体験の力が、ブランドをいかにエンパワーメントできるかを感じられる。

特に印象的であったのが、終盤の「触ることができるものを、人は忘れない」というフレーズ。

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物理を中心とした触れられる物質性、非日常のレベルに達した映像とサウンドを身体で体験することによって、音楽・ブランド双方にとって忘れられない体験となる。この考えは、様々な体験が仮想化されていく昨今において重要となるキーワードが、アーティストの口から語られる。これもTDMEならではの学びの深さではないろうか。

 


ピックアップ3:10代、若年層の行動や嗜好の変化(彼らへのプロモーション、人材発掘)

BAKERYでピックアップする3つ目のトピックは「10代、若年層への理解とアプローチ」。
これは特に、日本の音楽カルチャー・ビジネスについて現場の最前線を行く方々が登壇したTECH STAGEで多く語られた。

 

ビジネスを動かしていく世代からすると、そのリアルな実態が見えにくい“ティーン世代”。
その実態を垣間見れる“ずばり”なセッション「ティーン世代に向けた音楽マーケティングとは?」では、ドリコム 吉田 優華子氏、Arsaga Partners 高橋 真優氏、そしてモデレーターとしてCAMPFIREとKKBOX/うたパスの音楽事業にも携わる鳴田 麻未氏が登壇した。

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スマホネイティブな10代は、スマホUIに慣れているからこそ我慢出来る時間が短くコンテンツ消費も早くなる。さらに、コンテンツに“リアリティさ・親近感”を求め、それによりYouTuberの人気を生み、またMixChannelのやってみた動画に繋がっていく。音楽消費のあり方が変わり「音楽でコミュニケーションし、遊ぶ」ようになっているというのも実に興味深い。

またこれから先の未来に向けた音楽マーケティングについてディスカッションされていく中で“なるほど”とかんじたのが、現在のティーンユーザーは「コマーシャルメーカー」になっているということだ。
Twitterが定番であった2010年のユーザーは「コピーライター」、2013年のInstagramからは「フォトグラファー」へ、そして現在は短くおもしろい動画を作れるひとがヒーローになれる時代へと変化しているという。Instagramストーリーのインスタント観もまさにここに合致すると感じる。

このセッションで紹介された「10代の流行りが1分動画でわかる!放課後トーーク」(https://www.facebook.com/teentrendmovie/)はティーン理解のためにおさえておきたい情報源だ。

 

そんなInstagramストーリーを活用した、日本初のInstagramストーリーメディア「lute」の五十嵐 弘彦氏も登壇したのが「デジタル時代に合った音楽情報の届け方とは?」。メディア・音楽キュレーションからバー経営と様々な形での音楽コミュニケーションを図るSpincoaster 林 潤氏、iFlyer 木下 理氏と登壇し、音楽メディア・コミュニケーションの現在について語られた。

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五十嵐氏はluteを「分散型メディアで、ロゴがソーシャルや様々なプラットフォームで登場してくることを狙っている」と語り、Instagramストーリーを“現代の雑誌”だと表現。また林氏は、リスナーにとっては関係ないことは影響を受けず素直に良いレコメンドをすることが重要と語る。双方とも前述のティーン世代に向けたマーケティングに共通する点が数多く見られた。

多角的に かつ 複数の視点から捉え、共通点が見出だすことができる。これも集中したカンファレンスイベントならではの楽しみだと感じる。

 

さらに視点を変えて、その若年層からスターを発掘し、また支援するためにどうすればいいのかをトークしたのが「これから新人アーティストの発掘や支援はどのように変わっていくのか?」。
自身もアーティストであるFrekul 海保 けんたろー氏、Campfireにて音楽クラウドファウンディング他幅広くたんとうされている岡田 一男氏、多くの若者が音楽パフォーマンスを発信するnana musicの文原 明臣氏が登壇した。

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さまざまなプラットフォームが登場し、東京に来なくても自身で発信ができてしまう昨今。そういったプラットフォームでの新人発掘も進んでいる中で興味深いのが、新人アーティストの音楽への考え方。音楽業界で食べていきたいという人が少なくなってきており、「やりたいことが別であるけど、音楽の才能もあるからやろう」というスタンスだ。

音楽カルチャー・ビジネスの未来を考えていく上で、欠かすことの出来ない若年層へのアプローチ。デジタルネイティブ・スマホネイティブな彼らをいかに理解し、そこからスターを発掘し支援できるか。さらにそれを“届く形・方法”で届けていけるか。これまでとは違うアプローチが求められることは確かだ。

 

 


ピックアップ4:SNS活用の重要性

もはや欠かすことのできない「SNS活用」も、もちろんトピックとして挙げられる。

Chiara Michieletto氏による「ブランドとフェスがインスタを効率的に使うためには?」では、基本的なデータやTipsを整理しながら、フェスのようなイベントでの効果的なInstagram活用のナレッジがシェアされた。

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コンサートイベントの中でも一番好まれているSNSであるInstagram。そこで有効な「カラフルな風景」「他とは違うフード」「印象的なタグライン」「セルフィーが取りたくなるグッズ」…

それぞれを、さらにはそれらを組み合わせてイベントに取り込むことで、よりイベントの価値を増幅することができるという。こういった観点でのイベントプロデュースは今後ますます重要になっていくことは間違いないだろうし、取り込まないのは勿体無いと感じさせるプレゼンテーションであった。

また、「グローバルなダンスミュージックシーンにおけるPR活動」では、“アーティストによるSNS活用”について様々に語られている。

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日本では文化的にもまだまだ控えめだが、今後はアーティストのパーソナリティが今後のPRでは重要になるというメッセージ。これもまた、前述のティーン世代が重視する“リアリティ”にも通じるものがある。

SNSによって、“遠い憧れの存在・場所”から、“手の届きそうな、自分もそうなれそうな存在・場所”へと変わっていく中、それを活用できるかどうか/活用できる人材を運営に取り込むことができるかどうかが今後も重要となる。

 

 


ピックアップ5:最新テクノロジーの挑戦(ブロックチェーン、音楽スタートアップ)

音楽・エンタメ×テクノロジーを標榜するBAKERYとして見逃せないのが、「最新テクノロジーの挑戦によっていかに音楽体験が変わっていくか」だ。

今回のTDME2017のステージ構成からも分かる通り、“テクノロジーへの理解と活用”の重要性はますます高まってきている。そんな中当項では、「ブロックチェーン」と「世界に挑戦する音楽スタートアップ」について語られたセッションをピックアップすることで応援していきたい。

ブロックチェーンの活用

初日にTECH STAGEにて行われた「ブロックチェーン技術は音楽業界にどのような変革をもたらすのか?」では、話題のVALU代表取締役の小川 晃平氏、FinTechに精通した弁護士 増島 雅和氏、そして音楽ジャーナリストの柴 那典氏がご登壇。
ブロックチェーンとはそもそも何か、またそれが持つ可能性について語られた。

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ストリーミングサービスが世界的に普及し何十億規模のヒットも生まれ、またco-writtingといった手法の普及によって、複雑となっていく権利管理。その解決の緒として期待されているのが「ブロックチェーン」だ。

この技術の特徴について増島氏が軽快に実に分かりやすく説明していく。さらに音楽業界視点で柴氏がその重要性を語り、また小川氏からは、アセット管理にビットコインを活用している企業視点にてそのメリットやデメリットが語られた。

 

またMAIN STAGEでは実際に音楽ビジネスへのブロックチェーン活用を始めているdotBlockchain MediaのBenji Rogers氏によって「ブロックチェーンが支える音楽の所有権とデジタル化が進むメディアの未来」というプレゼンテーションが行われた。

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権利情報を確認する方法がなく、また多くの場面でさまざまな形式が利用されてしまっている、現在のメディアフォーマット事情を整理しながら、dotBlockchain Mediaにて進めている“ブロックチェーンを用いた新たな統一的メディアファイル”について話が展開されていく。

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許諾、義務情報が内包され、さらにアップデートされ共有されていくスマートメディア。それによりクリエイター、権利者、インフルエンサーがデジタルで自身の権利情報をメディアにエンコードし、流通もコントロールできる。さらにそれをAIにて処理させる未来を描く。

そんなRogers氏のプレゼンテーションは軽快で分かりやすく、ワクワクさせるものだった。
(またプレゼンテーション内で流されたBlockchainの概念をアニメーションで見せた動画はシンプルで分かりやすい。common craftにてその動画を見ることができるので、Blockchainについて手っ取り早く概念を知りたい人にはおすすめだ)

中央集権から分散していくことにより、誤魔化し無く個人や小さな規模の集団へのエンパワーメントが可能となっていく未来。さまざまなブロックチェーンスタートアップが登場してきているが、それが業界をどのように変えていきうるかはウォッチ要だ。

 

世界に挑戦する音楽スタートアップ 〜 LyricSpeaker、Qrates

レコード販売とデジタル配信を融合させた音楽プラットフォームQratesの代表ペ ヨンボ氏と、歌詞が読める次世代スピーカーLyric Speakerのクリエイティブ・ディレクター斉藤 迅氏によるトークセッションが行われたのが「世界に挑戦する音楽スタートアップ」だ。

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アナログレコードの製造販売プラットフォームとしてKickstarterと提携しグローバルで利用されているQrates。そしてSXSWで受賞し今年夏から海外で発売を開始、またLIVE演出など幅広く「歌詞のビジュアライズ」という体験でチャレンジを続けるLyric Speaker。共に世界で受け入れられている両者が、世界へいかに挑戦しているかが語られた。

このトークセッションを通じて感じたことは、セッションの最後でぺヨンボ氏からメッセージとして送られた「目指すのであれば、行動力を」であろう。積極的に行動を起こし、現在へと繋げている両者。そのパワーを貰えるセッションであった。

 

 


ピックアップ6:アーティストの口から語られる楽曲・作品制作の背景

ビジネス寄りの内容が続いたが、TDMEの幅の広さはこれだけでない。
もう一つの魅力として、「アーティストの口から語られる楽曲や作品制作の背景」も見逃せない

Dance Music とゲームの出会い、そしてVR~Rez Infiniteへ」では、水口 哲也氏がご登壇。『スペースチャンネル 5』や『Rez』など、ダンスミュージックを効果的に取り込んだゲームの開発、さらにはユニット「元気ロケッツ」での活躍など幅広く革新的なエンターテインメント体験を創造してきた水口氏から、その制作の歴史と裏側について語られる貴重なプレゼンテーションとなった。

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特に印象的だったのが、Rezサウンドアドバイザーがアフリカで取ってきたプライベート映像。アフリカの日常の中で、何もないところから徐々にグルーブが自然発生していくという映像。これからRezを着想したという。Rezファンである筆者として、こういった裏側を知ることができ興奮するプレゼンテーションとなった。

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また「A conversation with starRo, the first Japanese electronic artist to be nominated for a Grammy」では、starRo氏が登壇。Parade All 鈴木 貴歩氏がインタビュアーとなり、楽曲制作の裏側や、拠点とするLAがクリエイティブに与える影響について語られた。
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このセッションでは、カンファレンスイベントの重要性についても語られた。激変するものごとを学ぶ場として重要であり、また東京のプレゼンスを世界に示す意味でもTDMEのようなイベントが重要だという。「LAのクリエイティブコミュニティを見て、日本のクリエイティブコミュニティへの希望することはあるか」という鈴木氏からの質問にstarRo氏は、日本人のシャイさに対し「カンファレンスで機会を作るのは大事だ」とメッセージを送った。

ビジネスサイドだけではなく、こういったクリエイター視点にも触れられるところに、TDMEというイベントがもつ音楽へのリスペクト・真摯性が感じられる。

 

 


ピックアップ7:イベント・国としてのナイトライフ・カルチャーへの取り組み

最後にピックアップするトピックとしておさえておきたいのが、「日本のナイトライフ・カルチャーへの取り組み」の動向だ。

2020年の東京オリンピックに向けて、ナイトライフの一層の充実が必要という観点が「風営法改正後のナイトタイムエコノミーの最前線と今後の展望」と「ヨーロッパのナイトライフに価値を与えてきた「夜の市長」の活動とは 〜ナイトメイヤーサミット@東京に向けて〜」にて述べられている。

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未だ多くの課題を抱える日本のナイトカルチャー。これを豊かに・文化に溢れたものとするためには法整備を含めた取り組みが重要となっていく。

そういった観点が発信されていく場としても今後こういったイベントが重要となっていくだろう。

 

 

夜には待望の「SPINNIN’ SESSIONS」が日本初開催!

日中、音楽ビジネス・ダンスミュージック/クラブカルチャーの未来が語られた会場が、夜は一変 クラブに変貌。
日本初となる待望のイベント「SPINNIN’ SESSIONS at TDME」が開催された。

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「SPINNIN’ SESSIONS」とは、前述のカンファレンスパートでも登場した、世界的な EDM ブームを創ったオランダ発祥の最大手エレクトロニック・ダンス・ミュージック・レーベル「SPINNIN’ RECORDS」が主催する音楽イベント。米・マイアミの WINTER MUSIC CONFERENCE や、オランダの AMSTERDAM DANCE EVENT 内でも開催され、両イベントのチケットは即日ソールド・アウト。ベルギーの Tomorrowland やオランダの MYSTERYLAND といった世界的な音楽フェスでも「SPINNIN’ SESSIONS」のステージが 特設される等、世界的に大人気のイベントだ。

その同レーベルの日本初開催イベントがこのTDMEとコラボし、カンファレンスが開催されたのと同じ渋谷ヒカリエホールにて開催されたのだから、盛り上がらないはずがない。

ALISA UENOからスタートし、Madison MarsやEDX、そして初来日となったMike Williamsという世界的なDJ達のプレイで、フロアは大いに盛り上がった。

EDX

 

言葉で語るだけでなく、こうして良きナイトライフの形を実際に提示する。この昼と夜がセットになることで、この日本におけるクラブカルチャーの成長・発信が成立するのだと感じる、実に熱いイベントとなった。

 

 

さまざまな視点で音楽カルチャー・ビジネスについて語られた、重要な2日間

2日間に渡って、音楽カルチャー・ビジネス・テクノロジーの未来が語られたTDME2017。それらの最新動向を追うためにも、さらにはそこから共通点を見出し、また新たな可能性を探る場としても重要な2日間となった。

当然本記事でピックアップしきれなかった情報も多くあり、またカンファレンスの醍醐味ともいえるネットワーキングも楽しめるこのイベント。次回のTOKYO DANCE MUSIC EVENTが開催される際には、是非カンファレンスに、そしてその後のLIVEにも足を運んで貰いたい。

必ず未来につながるキッカケを得られるはずだ。

 


Yuki Abe

音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。