11/3(金)〜 11/5(日)の3日間にかけて行われたデジタルアート&エレクトロニックミュージック・フェスティバル「MUTEK.JP 2017」。そのNIGHT TIMEは、気鋭のアーティストによる数々のオーディオビジュアル・パフォーマンスが披露され、日本科学未来館が興奮に包まれた。
叶うなら全てを詳しく紹介したいが、残念ながら目にすることのできなかった作品もある。
そこでここでは音楽・エンターテインメント×テクノロジーメディアを標榜するBAKERYとして注目した、9つのパフォーマンスにフォーカスを当ててレポートしていく。
※ なお、以降の素晴らしい写真はMUTEK.JPオフィシャルからご提供頂いています。あらためて感謝を!
4枚の交差するスクリーンが、ステージに多層的なバーチャル空間を生む – NONOTAK
NONOTAK (FR+JP) _ Shiro
印象的な“4枚の交差する透過スクリーン”と、そこに挟まれながら対峙する二人。イラストレーターのNoemi Schipferと建築家・ミュージシャンであるTakami Nakamotoによるユニット「NONOTAK」の新作パフォーマンス「Shiro」だ。
交差したスクリーンの先に配置されたプロジェクターから、各面に楽曲に同期した映像が投影されていく。時にフロント・バックを2面として奥行きと複雑さを感じさせ、時に斜めを一面とした投影により“ステージを大きく分かつ壁”となる。一枚のスクリーンでは表現できない確かな立体感がそこにはあった。
そして、幾何学のパターンが展開されていく中、Shadow-strewn(影の効果を多用する)ライティングによって、2人の影がスクリーン/ステージサイドの壁に投影される瞬間が実にエモーショナルで良い!
“投影されるパターン”と自身の“像”、“生み出す影”。それがビートと一体となって繰り出される圧巻のパフォーマンスであった。
アナログシンセの骨太なサウンド × リアルタイム360°ARストリーミング – galcid
galcid (JP)
アナログ・シンセサイザーとユーロラック、TR-8の前に立ち、音楽を構成していくのはLena Saitoによるソロユニット「galcid」。即興でコントロールし、アナログならではの骨太・重厚な音を生み出していく彼女の後ろには、リアルタイムで彼女の姿が映っている。
ただこの映像、ただのリアルタイム映像ではない。VJ CHA2 , M.M.M , DesignPad VR Projectによるこの映像は360°カメラでリアルタイム撮影されている映像に、ポストプロダクション無しのARコンピューターグラフィックスが合成され、ストリーミング配信(Youtube Liveか)されたものを投影・操作しているというもの。
彼女のパフォーマンスに応じて視点が動かされ、それに同期してARのCGもリアルタイムで合成されていく。即興演奏ならではの突発的な動き・リアルタイムな操作といったパフォーマンスを殺さず引き立て、さらに盛り上げていく優れたステージ演出・パフォーマンスであった。
リアルとバーチャルの境を消し去り、超越するパフォーマンス – Nosaj Thing & Daito Manabe
Nosaj Thing & Daito Manabe (US+JP) _ No Reality Live
SNS投稿でDaito Manabe氏曰く「coachella, sonar hongkong,barceronaなど世界各国のフェスで披露したセットのアップデート版」となったNosaj Thing & Daito Manabeのパフォーマンス「No Reality Live」。その言葉どおり、リアルとバーチャルが溶け合う新しい体験のパフォーマンスとなった。
キャリブレーションされた複数台のKinectがバーチャル空間に再現するのは、Nosaj ThingとDaito Manabeの二人の姿。
リアルの2人の動きはそのまま、バーチャル空間にいる2人へと反映されていく。そのバーチャルの二人がいるステージを取り巻くように、パーティクルやオブジェクトが変化し高速に舞っていく。
さらにパフォーマンスが進むごとに、二人の像はパーティクルとなり、時に疎で色のない存在になり、そしてまた実像を取り戻す。それを捉えるているのは、リアルではあり得ないように旋回していくバーチャルカメラの動きであり、これはPerfumeのSXSWでのパフォーマンス時からの発展であろうか。
バーチャルの中の2人の動きには時にタイムラグが起きるが、それはDelayエフェクトのような音楽性を持って、2人の残像のように表現されていく。
最後、高速にオブジェクトが舞い回転するのに目を奪われたあと、ステージ上のリアルの二人に目を向けた時、それがバーチャルの2人のように見えた。リアルとバーチャルが溶け合い、境界を超える感覚。この驚きこそ、生で体験しなければ得られない特別なものだと感じさせるパフォーマンスであった。
AIDJと人間の“Back to Back” – Qosmo
Qosmo (JP) _ AI DJ PROJECT – A dialogue between AI and a human
AIと人が共にコラボレーションすることによってこそ、新たな表現が生まれる。今回もそう感じさせてくれたのはQosmoの「AI DJ PROJECT – A dialogue between AI and a human」であった。
2人のDJがお互いに曲をかけあうプレースタイル”Back to Back”を人間とAIで行った今作。筆者は以前もAIDJを鑑賞したことがあったが、その際にはデジタルのターンテーブルによるものであったが、今回はアナログのターンテーブルが用いられていた。人間のかけた曲をAIDJが捉え、選曲し、フェーダーでビート合わせを行い繋げていく。(レコードチェンジは人が行っていた)
AIによって表現が奪われるのでは、という議論がよく持ち上がるが、AIと人が共同することで新しい形でのクリエイティビティを発揮する、そんな未来を見せてくれるパフォーマンスであった。
なお印象的だったのは帰り際のオーディエンスから聞こえてきた「あのDJ、AIがやっていたらしいよ」という言葉。こうしてAIは自然と人の中に溶け合っていく、と考えるのは考え過ぎなのか、もしくは音楽の力だろうか。
空間に “音響の像” を生み出す – Monolake
Monolake (DE)
それまでのNOCTURNEステージ(1Fのメインともいえるステージ)でのビジュアルを活用したパフォーマンス達から一転し、映像を極力廃して音に注力したパフォーマンスをしたのは「Monolake」だ。今回のNOCTURNEステージでは、前方だけでなく後方の左右にもスピーカーが配置されていたが、それを活用しきったのはこのMonolakeと後述する小室哲哉ではないだろうか。
MUTEK.JPのロゴだけが映し出されたスクリーン、そんな中演奏がスタートした。当初はフロアにとまどいもあったが、演奏が進んでいく中でそれは興奮に変わっていく。
MUTEK.JP公式の表現を借りれば “当初から開拓に取り組んでいるマルチチャンネルサラウンドサウンド体験であり、そこに波面合成方式(WFS)、高忠実度再生(Ambisonics)、その他の音響方式の最先端バージョンを包含させたパフォーマンス” とのことだが、まさにNOCTURNEの大きな空間全体を活用し、更に実際の空間よりも広さを感じさせるサウンドスケープ、そしてその中で音がバラバラにならず、宙に “音の像” がそこにあると感じてしまうほどの構築感。これは本当になんなのだろうか。音響のコントロールでここまで空間を作れるのか、と改めて音のパワーを感じる事のできるパフォーマンスであった。
“コマ”の回転によるユニークな音と視覚表現 – Myriam Bleau
Myriam Bleau (CA/QC) _ Soft Revolvers
“スピニングトップ”(コマ)を楽器とするパフォーマンスを行ったのは、前日のDAYTIMEでパネルディスカッションに登壇もしていたMyriam Bleauの「Soft Revolvers」。
「スピニングトップ自体に生命が宿っているかのような動きをする時があり、それが面白くて媒体として使っている」という彼女。センサーが内蔵された4つのスピニングトップから取得されるデータを元に、再生されるサンプルは回転数に応じてスピードを変化させていく。ターンテーブルをイメージさせつつも、コマの回転が生み出す変化はまた確かに違ったものであり実にユニークだ。
また後方のスクリーンには、回転し発行するスピニングトップを上からを撮影した映像が投影されていた。デジタルで音を取り込み、そこから映像を生成するのとは異なり、コマの動き自体が音を変え、また視覚的な光を生み出している。回転というアナログな動きが仲介することで、音と光が完全に連動することに新たな感動を覚えるパフォーマンスであった。
音と光の相互作用が視界を埋め尽くす – Woulg & Push 1 stop
Woulg & Push 1 stop (CA/QC) _ Interpolate
今回のMUTEK.JP 2017において、(さまざまな面で)最も話題となったのはDOMEシアターだろう。限られた定員数、また“ドーム”という構造物と“ドームにプロジェクション可能な設備を備えた場所”、そして“アーティスト”が揃わなければ体感できない作品に、多くの来場者が連日列を作った。
そんなDOMEシアターにおけるパフォーマンスから、幸運にも私が体験できたWoulgとPush 1 stopによる作品「Interpolate」をピックアップする。
この2人も前日のDAYTIMEパネルディスカッションに登壇し、今回の作品について説明をしてくれていた(リンク)。約30分だろうか、3つのパートで構成されたこの作品は “音と光の相互作用” で生み出される作品となっている。Max/MSPによって開発されたオリジナルシンセサイザーと、TouchDesignerによるビジュアライズ。その双方がお互いに影響を与え合いながら構築された映像と音がドームを満たしていく。
オーディエンスはリクライニングシートに座り鑑賞したが、視界が映像で埋め尽くされる感覚は、昨今のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)でのVRを超えるものであった。
音だけでなく五感をも包み込む3D AUDIO LIVEの空間 – katsuyuki seto
katsuyuki seto (JP) _ 3D SOUND Installation
MUTEK.JP 2017ではさまざまなジャンル・形態のパフォーマンスが行われていたが、その中でも一番“濃い空間・体験”を作り上げていたのは、サウンドデザイナー katsuyuki seto による「3D SOUND Installation」だろう。
Day1・Day2と多くのアーティストがパフォーマンスを行ったINNOVATION HALL。ただDay3はこのkatsuyuki setoによる2公演しか行われなかった。それはなぜかと疑問に思いながらも会場に向かうとPROGRAM_1の公演は既に満員となっており、筆者が幸運にも体験できたのはPROGRAM_2「3D Audio Live」であった。
開場されその部屋に入っていくと靴を脱ぐよう促される。部屋に入ると、爽やかなアロマが香り、強く焚かれるスモークに暖色のライトがさす、さらに壁や天吊りによって植物が飾られ、さらにはさまざまな方向から川のせせらぎの音と鳥の鳴き声が聴こえる“異空間”であった。
オーディエンスは靴を脱いで一面に広げられた心地よいラグの上に座りこみ、鑑賞することとなる。
第一幕はヒューマンビートボクサーKAIRIとkatsuyuki setoによるコラボレーション。マイク一本でKAIRIが生み出す多彩な音を、katsuyuki setoが3D SOUNDによって空間に配置し、また的確にエフェクトによってKAIRIの持つ “表現力” を何倍増幅していく。
続いて第二幕はkatsuyuki seto氏単独によるパフォーマンス。KAIRIが第一幕の後に“宇宙旅行”と表現したとおり、部屋を揺らすほどの轟音と共に観客を様々な地へと連れて行ってくれた。水の音、鳥の声、ワープを思わせる音、AIについてのメッセージなどが、デジタルサウンドと共に、空間を回り・広がり・重なっていく。
大きな空間で行われたMonolakeとは違う、凝縮された空間でのサラウンド体験。小規模な部屋で6方向から音を出し分けても破綻させず音楽として成立させる、氏の音空間設計力はまさに驚愕であった。
シンプルかつ複雑なビジュアライゼーションにストーリーを与える圧倒的“音塊” – Tetsuya Komuro & Akira Wakita
Tetsuya Komuro & Akira Wakita (JP)
とんでもないものを見てしまった。そう感じさせてくれたのは、“音楽家” 小室哲哉と慶應義塾大学環境情報学部教授 脇田玲による、オーディオビジュアルインスタレーションだった。
脇田氏による、スクリーンを最大限に利用し流体シミュレーションを思わせる「シンプルから複雑さが生みだされていく」美しい映像。さらにそれにストーリーを与え、その世界に引き込むのは小室氏の生み出す音楽。
NOCTURNEステージのサラウンド音響をフルに活かしきったと感じさせたのはMonolakeと同様だが、Monolakeが「はっきりとした彫像を空間に浮かび上がらせた」としたならば、小室氏の音像は「押し寄せる音の津波のような塊」のように感じた。(重なるシンセサイザーの音が四方から押し寄せてくる圧倒的な音圧はMUTEK.JP 2017でも一番だったのではないだろうか。)
脇田氏の映像はモチーフとしてはシンプルなのだが、複雑な変化を美麗な映像で見せるそれは、単体でも惹き込まれてしまう。
さらに小室氏の音楽が加わることで、まるで映画のような壮大なストーリーを感じる(音響の迫力で言えば、映画なんて目ではない)。小室氏に対しては「J-POPのプロデューサー」というイメージを持つ人も多いかもしれないが、このパフォーマンスを見た人は間違いなく、彼を“音楽家”として捉えるに違いない。
まるで双方でお互いに引き上げ合うことで高みに登っていくかのような、言葉にできない「とんでもない」ものであった。
オーディオ・ビジュアルの新たな取り組みが生み出す新体験、それを身近に体験できる日本へ
音と映像の両方が揃い構成される作品を、テクノロジーにフォーカスし言葉で表現しようとすること自体が無粋ではあるが、少しでも会場の興奮をなるべく伝えられればという思いで一気に書き上げた。
技術に偏った内容となっているため誤解されないように補足するが、どの作品・パフォーマンスも勿論、技術だけでなく、音楽性を持っているからこそアートとして成立している。
それを感じるためには実際に体験するしか無い!そうしたきっかけをMUTEK.JPは与えてくれる重要なイベントだ。ここ日本においても音楽・アートに触れられる機会を増やし、その土壌を作っていって欲しいと強く感じている。
これを読んで気になったアーティストのLIVEへとどんどん足を運び、この興奮を体験してほしい!
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(ローカルの文化・土壌を生み出す重要性は、MUTEK.JP 2017のもう一つの側面であるDAYTIMEの記事にて触れている。合わせて読んでいただくことで、MUTEK.JPというイベントの“深さ”を感じてみてほしい。)
- リンク:
- MUTEK.JP
http://mutek.jp/
最後までご覧いただきありがとうございました。
音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。