前回に引き続き、エンターテインメント領域に特化した日本初のカンファレンス「THE VR PARADE」の模様をレポートする。
放送局におけるVRの取り組み
様々な分野とも親和性の高いVR。当然、映像を扱うプロとも言える“放送局”でも、VRの活用は進んでいる。
そんな放送局からは、末永 久人氏(株式会社毎日放送 テレビ営業局営業開発部 企画プロデューサー) と 阿部 聡也氏(株式会社テレビ朝日メディアプレックス マルチデバイス事業部 ビジネスプロデューサー)が登壇。
テレビで扱う映像との違うVRの特性やそれゆえの失敗談、そして放送局におけるVRの未来が語られた。
末永 久人氏が語ったVR活用の検討案。既存のコンテンツの価値を強化する生VRなどが挙げられた。
編集も出来ず、ただ撮影しても面白いものにはならないVR。
それに対して、末永氏・阿部氏共にVRならではの面白さを出すための相違工夫を数多く紹介してくれた。
また、VRが普及してきたとはいえ、未だ研究段階とも言える現在において重要となる“マネタイズ”についてもアイディアを提示。よりビジネスとしてのVRの側面についても触れられたセッションとなった。。
マネタイズについても取り組みを紹介。タイアップや、新たな価値を創造することによるマネタイズが挙げられた。
VRと体験型エンタテインメント – 「Aoi」&「VRDG+H」
続いては、“体験型エンタテインメントとしてのVR”ということで、
サカナクションの楽曲を用いた8K VRシアターで話題となった「Aoi」を制作した田邊 浩介氏(株式会社NHKエンタープライズ グローバル事業本部 事業開発センター デジタル・映像イノベーション エグゼクティブ・プロデューサー)、
DMM VR THEATERで大盛況となっているイベント「VRDG+H」を進める棟廣 敏男氏(株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション 制作本部 クリエイティブルーム チーフ)が登壇。
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用いない“シアター形式”をとる「Aoi」と「VRDG+H」。
その制作の裏側と共に、体験型エンタテインメントとしてのVRの可能性が語られた。
8K3Dによる“立体映像” + 22.2chの“立体音響” + レーザー照明による“空間演出”によって生み出されるAoi
DMM VR THEATER × クリエイターによって“そこでしか味わえない体験”となっているVRDG+H
このセッションのキーワードを挙げるとすれば、「Shared Experiences」 と 「そこでしか味わえない体験価値」。
現在のVRの主軸といえば『人工的に生み出した(もしくは撮影した映像による)“現実感”を、HMDを身につけた一人がどこでも味わえる』もの。
対して「Aoi」や「VRDG+H」はそれ専用に作り上げられた施設においては、その体験を自分以外の複数人と同時に体験・共有することができる。
大切な誰かと共有することの価値、特別な施設に赴かなければ体験できないというイベント性・希少性。
こういった形式をどこまで“VR”と呼ぶのか、などの意見はあると思うが、新たなエンタテインメントの選択肢として、より普及してほしいところだ。
「Aoi」における“Shared Value”
また、そのためにはこのセッションでも話題に挙がった「クリエイターが育ち・活躍できる環境の構築」、「クリエイターとコミュニケーション・協調できる人材や組織」が重要となる。
HIP LAND MUSICが設立したクリエイティブ部門『INT』のような組織が今後さらに登場し重要な役割を果たしていってほしいと感じた。
“カジュアルVR”で演者とファンとの距離を近づけ、可視化するSHOWROOM
本イベント最後のセッションは「VRによるエンタテインメントビジネスの未来」と題し、前田 裕二氏(SHOWROOM株式会社 代表取締役社長)による現在進行形のVRビジネスについて。
日本最先端のギフティングサービス「SHOWROOM」はアーティストやアイドルとファンをつなぐ新しい形のサービス
SHOWROOMはアーティストやアイドルのライブ配信を行うサービス。
そう聞くとYoutubeやニコ生などと同じかと思われるかもしれないが、大きな特徴は“ファンのアクション・姿形・アイデンティティを徹底的に可視化”しているということ。
ファンはアバターとして画面の中に入り込むことができ、放送中のアイドルに対してプレゼント(投げ銭)をアニメーション付きで贈ることができる。
配信側のアイドルはリアルタイムでリアクションを目にすることができると共に、次のアクションに向けたマネタイズにもつながる。
そんなデジタルで新たな関係性を構築する「SHOWROOM」もVRに着手している。それが「SHOWROOM VR」だ。
すでに開始している「SHOWROOM VR」は、3つの特徴ですでに成果を上げているという。
- カジュアル
スマホだけで気軽に体験できる、VRをより身近に - マネタイズ
ギフティングをより可視化 - インタラクティブ
リアルタイムでよりリアルなインタラクションを
また、特にVRに置いては「すき」が重要というのも興味深い。
画角の決まったカメラの映像では見ることのできないアイドルの「すき」にこそ、ファンを引きつける“生感”があるのかもしれない。
セッションでは実際にVRに移行してからギフティングが伸びたという例も紹介された。
「SHOWROOM VR」によって10倍以上の効果が見られたとのこと。
また、VRの魅力を高めるための工夫として「コメントレーダー・ギフトレーダー」、「ヒートマップ」といった機能にも取り組んでいるとのこと。
さらに大きな効果として、VRにすることで視線の傾向などより詳細な分析も可能となったという。
特に強いメッセージとして掲げられたのが“とにかく気軽にVRを”。
VRは大きな魅力・可能性を持っているものの、機材など触れるにはまだまだ壁がある。
そこでSHOWROOM VRでは、スマホ単体でも利用できるカジュアルな形でVRを提供することで、
その第一歩を気軽に踏み出せるようにしている。この考え方はVRが一過性のブームではなく、より大きく普及させていくためにも特に重要な示唆を含んでいるのではないだろうか。
このイベントのラストを飾るにふさわしい、「現在進行形のVRビジネス」を感じることのできたセッションであった。
VRを加速させ未来を作るキッカケとなったイベント
日本初の「エンターテインメント領域に特化したVRイベント」となったTHE VR PARADE。
普段のVRニュースなどでは触れることのできない、活きた経験や視点に触れることができる貴重な場であった。
VR元年とはいえ、未だ模索が続いているVR。
それが一過性の流行モノではなく主要な表現の一手法に昇華されるためには、このようなイベントが継続的に行われていく必要があると思われる。
また次回このイベントが開催され、より進化し多くの感動や新体験を届けられるVRの姿が見られることが実に楽しみだ。
ソース:
- THE BIG PARADE
https://thebigparade.themedia.jp/posts/1011462
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。