エンターテインメント領域に特化した日本初のカンファレンス「THE VR PARADE」が2016年7月28日、会場はRed Bull Studios Tokyo Hallで開催された。
放送局、エンタメ企業、テック企業から錚々たるキーパーソンが登壇し、エンターテインメント×VRの可能性について探った3時間を、前半・後半に分けてレポートする。
会場はRed Bull Studios TokyoのHall。ソファが並ぶ会場は満席となった。
VR×エンターテインメントの最前線
本イベントのオーガナイザー/モデレーターであるParadeAll株式会社 エンターテック・アクセラレーター 鈴木 貴歩氏より、エンターテインメント領域におけるVRの現状について語られるセッションからスタート。
鈴木氏がアクセラレーターを務める“エンターテック”、BAKERYとしても全力で応援したい。
冒頭VRの基本として、脳生理学的な錯覚のメカニズムと、それらにコンピュータの処理性能が追いついてきた現在のVRが与えうる効果について整理していくが、会場からは「初めて聞いた!」との声が。
- 【VRを現実と錯覚する3つの要因】
- 視野角100°以上の映像を見せると脳が“自分が動いている”と錯覚
- 頭の動きから“0.02秒以内”に追いついた映像が出力されると、普段感じている物の見方と同じになる
- 双方向性〜アクションに対して適切な反応がある
- 【VRの効果を考える上で重要となるメカニズム】
- 密接距離:45cm以内の距離に入るとより親しみが湧く
- クロスモーダル現象:五感のある感覚が刺激されることによって、存在しない他の感覚を脳が補完する
今年は“VR元年”とも言われ様々な領域で活用されるVRだが、今後も市場は拡大していく見込みで、2025年には「ライブ・イベント領域」、「ビデオエンタテインメント領域」合わせて7,300億円にも登ると試算されているとのこと。
ゴールドマン・サックスの試算によると、昨年のアメリカ音楽市場と同規模の市場が。
やはりエンターテインメントにおけるVR活用は避けては通れないのだと痛感させられる。
その後はVR業界におけるプレーヤーを整理。
JAUNTやWithin、REWIND、VR Playhouseといったアメリカ西海岸におけるVRプロダクションの他、日本の渡邊課の紹介が続く。
また押さえておきたい流れとして「ユーザーによるコンテンツ投稿」があげられる。Richo Theata Sの普及やFacebookなどのプラットフォームの対応によって、今後より一層増えていくことが予想される。
オーガナイザー/モデレーターによる、世界レベルでのエンターテインメント×VRの視点の整理により、このイベント全体に一本の軸を通してくれたように感じるスタートとなった。
VRのクリエイティブ先駆者 “渡邊課” によるセッション
続いては全天球映像作家 渡邊課 課長 渡邊徹氏によるセッションがスタート。
多数の映像作品を手がけられてきた “渡邊課” の経験から、撮影の機材や撮影方法、クリエイティブにおける視点などが紹介された。
全天球映像作家 渡邊課公式ページにて様々な作品を見ることができるので、そちらも必見。
経験と実績に基づく様々な話が展開される中でも、特にBAKERYとして印象的だったキーワードを、以下にご紹介。
- 解禁後のSNSの広がりを意識
SNSでもシェアしやすいような“キーワード”に落とし込める映像体験を考えている。 - HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の形には限らない
全天球映像はプラネタリウムにも投影でき、多人数に対しての包み込むような体験を与えることができる。 - 酔う手前くらいの体験がないと面白くない
移動撮影はドリーだったり滑車を使って、なるべく揺れの少ない状態で等速移動を心がけている。ただ、酔う手前くらいの体験がないと面白くない。 - させたい体験から逆算した撮影を
LIVEは正面性の決まったものが多いと思うが、普通に撮ってしまうとそれほど面白くない → フロアでの囲みLIVEを。
また、“VRでの表現に向いていること”としてまとめられたスライドから、VRの可能性を見ることができる。
スケールのコントロール、時間や空間を超えた共有体験など、VRの可能性を見ることができる一枚
この後、実際に観客1名ににOculus Riftを装着し体験させる場面もあり。
VRを表現手法の一つとして様々な可能性を提示された、エンターテインメント領域特化のイベントとして実に相応しいトークとなった。
ゲーム業界の先駆者によるVR普及への提言
続いては急遽登壇が決定した、株式会社バンダイナムコエンターテインメント Worldwide Planning & Development Unit 部長 ゲームディレクター/チーフプロデューサー 原田 勝弘氏。
『サマーレッスン』や『アーガイルシフト』など、日本ゲーム業界のVRにおける先駆者である原田氏。
その事例を紹介したのちに原田氏が問うたのは
「日本のゲーム業界はHMDVRコンテンツの先駆者になり得るのか」
ということ。
欧米と比較し投資額と共に大きな差となっていることとして
「新しい技術にチャレンジせず、市場の熟成直前まで様子を見てしまう問題点」
「“信じられる技術” と “ビジネスモデル” を結び付けられる人・ネットワークの必要性」
を示した。
特に技術をビジネスに結びつける上で超える課題として挙げられた「プレゼン力」については、我々も考える必要がある。
『世の中や組織を動かすような「オーディエンスによる支持」はここがシンクロした集団活動時多発的でなければならず、ウェーブを起こすには、ビジネスをできる人と技術がわかっている人がバランスよくやっていく必要がある』とのこと。
良質なコンテンツを生み出しながらも、それをどのようにアピールしていくか その技術や仕組みについても、VR普及のために考えていく必要があるのではないだろうか。
VRをただ礼賛するだけでなく、真の普及・拡大に向けた課題提起によって、イベントの意義が引き締まるトークであった。
放送局における活用、体験型エンタテインメント、VRエンタメビジネスは後半へ
大ボリュームのイベントであった「THE VR PARADE」もまだこれで前半。
次回は放送局における活用、体験型エンタテインメント、VRエンタメビジネスについて、レポート後半に続く。
レポート後半はコチラ
ソース:
- THE BIG PARADE
https://thebigparade.themedia.jp/posts/1011462
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音楽・エンターテインメントとテクノロジーに焦点を当て 「音楽・エンターテインメントが持つ魅力・パワーを高め、伝える体験(演出や技術、それらを活用したマーケティング施策など)」、 「アーティストやクリエイター、音楽業界がよりエンパワーメントされるような仕組み(エコシステムや新しいビジネスの在り方)」 を発信・創造していくことに取り組んでいるクリエイティブ・テクノロジスト/ライター。 「SXSW2017 Trade Show」出展コンテンツ制作やレポート発信をきっかけに、イベント・メディアへ登壇・出演。その他、LIVE演出やVJの技術開発にも取り組んでいる。